往復書簡② 親愛なる美紀さんへ

わたしたちの往復書簡
©ペレ信子

2024年9月13日 東京

親愛なる美紀さんへ Ma chère Miki

お手紙ありがとうございます。

前回「親愛なる」という枕詞をつけて誰かに名前を呼んでいただいたのは、いつのことだったか思い出せないくらい手紙を書かなくなりました。「親愛なる」はフランス語の「Cher / Chère」(英語のDear)を日本語で表現したものだと思いますが、良い言葉ですね。

ベルサイユは雨模様なのですね。始まった新学年、秋の気配。夏休みが終わり、ひとりの時間にホッとして外の雨を眺めながら紅茶を飲む(美紀さんはコーヒーよりも紅茶のイメージです)美紀さんを想像しています。

実は私も同様で、夏らしい暑い日々が、子供達がフランスに帰った途端に台風の長雨に代わり、子供達が夏を持っていってしまった(夏が去りながら子供達を連れていってしまった)ような寂しい気持ちでいたのです。

日本の新学年は4月からですが、フランスの学校は9月。9月は新しいことが始まる月です。本当に偶然なのですが、私も何か新しいスポーツがしたくてスポーツクラブを見学しに行ったところです。

子供達が夏休みのために7月初めにパリから帰国して、最初は作る料理や洗濯物の量が「こんなに多かったっけ?」と驚きましたがあっという間に前のペースを取り戻しました。たくさん作って、みんなで食べるって楽しいですね。

美紀さんの不安、よくわかります。特に子供が大きくなって離れていくことについて。子育て黄金期の18年間はあっという間ですね。

先輩ママが、子供が巣立ってから何が寂しいって「ごはんよ〜」と呼んだら子供が「は〜い」って部屋から出てきそうな気がする瞬間だと言っていましたがそれを実感しました。つまり、全力投球していたあの毎日がもう戻ってこないとわかること。子供が小さい時には永遠に思えた子育ても、あっという間に終わりの日を迎えるのですね。

昨年、末っ子が出ていった時はしばらくメソメソしていましたが、気がついたら夫婦2人の生活に慣れていました。2人生活はとにかく楽だということを告白します。夕方になっても夕食のことを考えて焦らなくていい。学校の休みを気にしないで旅行の計画を立てられる。そんな自由を手にしました。この手紙だって以前なら夕飯で大忙しの時間に書いています。それでも、子供が家に帰ってくれば、余裕をとって座っていたベンチに、ちょっと詰めて座り直すように、子供達の場所を作ることはできます。せまいベンチにまだ子供が座りたいかどうかは、向こう次第なのですが。

さて、子育てから自由になった私たちはまだ50代。今、新しいことを始めて10年後にその専門家になって、キャリアを積むこともできるなと思っています。

このごろは歴史上の人物で、神童といわれた人よりも、意外に晩成型だった人の話に目が行くようになりました。昆虫記で有名なファーブルも、昆虫好きでありながら長年、物理・化学の教師をして生計を立て、「昆虫記」の第1巻を出版したのは彼が55歳の時だったそう。でもそれまでに培った彼の教える技術や、その頃科学的な文書を書く時に必須と思われていた固い文体ではなく、彼らしい文体がその著書の魅力になったのだそうですよ。人生に何も無駄はないんですね。

働くということ、私もとてもよく考えるテーマです。よろしければ今まで美紀さんがどんなふうに進路を選び、どんなふうに転職して、家族を持ってからどんなふうに働こうと考えていたのか、教えてくださいますか?私も自分なりに今までの仕事について考えてまたお返事しますね。

まだまだ暑い日もある東京からそろそろ赤ワインが合うお料理が美味しい季節になるフランスを思いながら筆を置きます。

Avec toutes mes amitiés. 友情を込めて        

信子
PS: 写真はこの夏、子供達と旅した日本の南の島です。

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