往復書簡⑤ 親愛なる信子さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリールMiki

10月4日、ベルサイユ

 往復書簡を初めてから一か月経ち、気づくと暦は十月。黄金色のティヨールの葉が、風が吹くたびにに舞い降りてきて、狭い庭が落ち葉だらけとなっています。そちらはいかがですか? 夏の名残もほどほどに、あの青が濃い、日本の秋空が到来していますように。

 風といえば、時も風のように過ぎ去っていくものですね。今、返信を書くべく、自分の来た道を振り返っているのですが、新卒の頃のことなども昨日のように思い出されてしまって。けれど、実際にはあれから何十年も経っているという……。

 信子さんからのお手紙には、フランスで仕事を始められ、そのままキャリアウーマンになるのだろうな、と思われた、とありました。わたしの方は、普通に日本にて、航空会社の新入社員として歩を踏み出したのはいいものの、企業カルチャーになじめず、仕事というものに対しすっかり後ろ向きな気持ちになってしまったという、信子さんと正反対のスタートでした。わたしたち、あの頃に出会っていたら、今のように共感し分かり合える仲にはなれなかったかもしれませんよね。そう思うと、運命ってよくできているなぁ、と感心してしまいます。

 信子さんからは、「どのように進路を選んできたのか」というご質問を頂いていましたね。新卒の頃、念頭にあったのは経済的自立でした。実家も出るし、お金貯めて、将来に備えなくては、という思いが強くて。その将来が結婚なのか、留学なのか、わからないけれど、いずれにせよ資金は必要でしょ、と。時代はバブル終盤という背景があり、不安定な年頃だったから、確かなものとしてお金を求めていたのでしょう。

 そんな不純ともいえるキャリア人生スタートを切ったせいか、その後もジグザグな道を歩みました。場所も日本からニューヨーク、ロンドン、間には留学先のフォンテーヌブローと移動も多く。コスパ・タイパを求めるイマドキの方からすると、無駄が多いと笑われてしまいそう。でも、どの「ジグ」も「ザグ」も当時の自分なりに考えて取った行動だったんだよね、とも思います。 
 ……と、ここまで書きつつ、そうか、わたしは受け入れる境地にいるのか、と気づきました。少し前までは、ジグザグすぎたキャリア希求の道を歩んだ自分を恥ずかしいと思っているところもあったんですよ。うん、でも恥ずかしがることはないですね、精一杯だったのですから。 
 信子さん、手紙を書くってほんとにいいですね。書くことで知る自己、多し、です。

 さて、大切なのはこれから、ですよね。

 信子さんも、この先の仕事について形が見えつつある、とのこと。実はわたしもそれに近いかもしれません。コロナの頃からこの先の仕事について考え始めて、少しずつ動きだして、ようやく自分の良いところ、苦手なところを生かした働き方を見いだしつつあります。できるところから動いてみたことは、わたしにとっては吉でした。もう少し輪郭が見えてきたら、また話を聴いてくださいませ。

 信子さんのお仕事のこと、子育て最終フェーズのお話なども、楽しみにしています。晩婚・高齢出産のわたしとは、そこも正反対の歩みをされた信子さんのお話、とっても興味があります。

 ではでは、季節の変わり目、お風邪など召しませぬよう、どうぞご自愛くださいね。

かしこ
美紀

追伸:40代の頃に、女性の生き方&子育て&働き方について考えさせられるエッセイを読んだことがあります。それを書かれた方のTED動画(和訳付き)を見つけたのでシェアを。米国の、それもものすごいキャリアを持つ方の話ではあるのですが、そして、ビッグな話へと繋がっていくのですが、でも不思議と共感するところが多くて……。ご興味あれば!

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