往復書簡㉝:親愛なる信子さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリール

5月16日、ベルサイユ

恒例の、金曜日朝のお便りをしたためています。
信子さんの新緑の写真からは、日本の、からっとしているけれどどこかしっとりしている、あの5月の薫風が感じられ、胸がきゅっとしました。こちらは、藤の花も散り、いよいよ薔薇の花が登場です。薔薇はやはり何か君臨するものがありますね。姿や香りもですが、花弁の厚さ、質感、強さ……。「アナタはすごいです」と、今朝も写真を撮りながら、こころの中で敬礼していました。

前回のお手紙には、妹さんと姪っ子さんの友達のような母娘関係に対する信子さんのお気持ちがありましたね。親子は親子、子どもの成長に合わせて、立ち入ってはいけない境界線を尊重するという信子さんは、お嬢様を信頼されているんだなぁ、だからこそ、距離を持って接することができるんだなぁ、と読みながら、そう感じています。
一方で、妹さん母娘の関係もいいなぁ、と思いました。姪っ子さんも大人になって、妹さんも対等に接するようになったのかな。そこにも信頼関係を感じ取られます。

わたしは息子しかいませんが、親子観でいえば、信子さんに一票!ですね。親子は親子。友達は友達。ずっとそばにいてあげられるわけではないのだから、子どもには、こころ許せる友達や恋人、そして親ではない信頼できる大人など、セーフティネットをたくさん作ってもらいたい、と思っています。以前にも書きましたが、わたしは若い頃、一周り以上も年上の友人ができ、その方の存在に救われたことがあるので、特にそう思うのかもしれません。

さて、フランスの親子観に関するご質問ですが、イメージ的には信子さんの親子観ですよね。自律した親と子の関係。一昔前は、確かにそうだったと思うのですが、今、周りを見ると、友達関係のような母娘が多くなっている気がします。一方「母と息子」だと、うちもそうですが、そんなに近くないケースがほとんどかな。

フランス人の友達の多くは、娘さんとは親友のように、しょっちゅう電話かテキストメッセージを送り合い、一緒に出掛け、人によっては勉強すらも手伝ってあげるし、彼氏との関係の相談にも乗っていて、身体のことも知っていて。わたしからすると、不思議な感じがします。

わたしと息子たちの関係はというと、実は最近「失敗したかなぁ」と思っているのです。愛情は注いできたのですよ。ご飯も作って、旅行にも連れてって。でも返りがないんです。愛は無限というのは、神さまだけですね。人間はやはり、愛し愛され、と相互でないと、枯れてしまう、少なくともわたしはそう。息子たちにすれば、気持ちを表現するのが恥ずかしい、難しい、ということなのでしょうが、そこね。ちゃんと教育しなかったなぁ、と反省しています。このフランスで、愛を語れないと、大変ですよね。でも彼らもフランスでは成人ですし、「ま、頑張って」という気持ちです。わたしとしては淋しいのですが、このくらいの淋しさは「お母さんだもん、大丈夫よ」です。

それにしても信子さん、お忙しそう。学術的な文章を、それもフランス語で書くなんて、想像しただけでもくらくらします。そんな中で妹さん&姪っ子さんとの会食をされ、考える機会となって。それをシェアしてくださったお陰でわたしも考える機会をお裾分け頂きました。息子たちとの関係について、書くことで整理できたように感じています。うん、わたしも頑張ります。
人との交流って、一番の刺激であり、一番プレシャスですね。このお手紙のやり取りからも、多くのものを受け取っています。あらためまして、ありがとうございます。

信子さんもどうぞ健康第一に頑張ってくださいね。ご返信もご無理なく、ね!

かしこ
美紀

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