往復書簡⑩ 親愛なる美紀さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリール信子

フランスの秋を思わせる雨の日がこのところ多かった日本ですが、やっと秋晴れになった週末です。昔は紅葉の名所を見るために、渋滞を覚悟で出かけていましたが、今は何気ない山里でひっそりと紅葉している木々に心を奪われるようになりました。

ご主人がハロウィーンが好きだとお聞きしてとても親近感を覚えています。実は私たちは長男が3歳〜5歳だった時、アメリカ東海岸、ボストンに住んでいたのです。その時に初めて体験したハロウィーンはとても楽しかった良い思い出です。各家庭があそこまで徹底的に家や庭を飾りつけ、子供どころか大人まで仮装して住宅街全体がテーマパークのようになってしまう楽しさ。子供にとっては夜に仮装して友達と歩き、お菓子までもらえるなんて夢のようなイベントで、子供の教育に厳しいフランス人家庭なら眉をひそめるようなことばかりです。でも、普段きちんとしているからこそ、そんな羽目を外すイベントが年に一回あっても良いのでは、とも思います。ご主人がハロウィーンが好きというのは美紀さんのおっしゃる通り、小さかった時の自分を思ってのことなのかもしれませんね。

「mendier」という動詞についてですが、私も美紀さんと全く同じ印象を持つ言葉です。「物乞いする、ねだる」という意味ですが、単に「欲しがる」という感じではなくて、目上の人に目下の人が懇願しているイメージがあります。「mendier」しない、とは「毅然としていなさい」という意味なのでしょうね。

「ママにはナイショね」って言いながら隠れて孫にお菓子をあげるような、甘いおばあちゃん像が私にとっては一般的に感じるので、厳しく孫に接するおばあちゃんもいるのだなぁと思いました。確かに隠れてたくさん甘いものをあげてしまうのはそれはそれで困るのですが、親がきちんと躾けているのなら、おばあちゃんやおじいちゃんは少し孫を甘やかしても良い気がするのですよね。ただお義母様にとっては厳しい接し方が自然で、そういった躾を受け継ぐ事を誇りに思われていることも頭では理解できます。その家庭の伝統ですものね。

でも小さな子供がチョコレートをちょうだいと言った時にたしなめられるのを見るのは、ちょっと心がいたみます。

「家族ってなんなのでしょう?」9月末に義母が亡くなり、フランスに行った時によく考えたテーマでした。お葬式の前後に声をかけてくれたり、付き添ってくれた親戚たちはあきらかに友達以上の家族と言える人々だと感じました。自分のことを説明しなくても黙ってそこに一緒にいて心配してくれる人。そして血がつながっていなくてもただ家族だと認めれば、それで家族なのだとも思いました。動物が群れになって背中をくっつけ合って寝ているような、そんなものなのではと思うようになりました。思想とかはそんなに大切ではなく、もっと動物的にお互いの健康や安全を願ってそばにいたり、見守ったりする人たち。

子供達も大きくなり自分たちの考えや、仕事や、それぞれのパートナーのことなど私たちの手の届かないことが増えてきました。大人同士ですから意見が同じでなくても当然です。それでもただお互いの健康を祈り、いつでも帰っておいでと言える関係でいられれば良しとするべきなのではと思うこの頃です。どう思われますか?

朝夕、寒いと思うこともあるからこんな風に考えるのでしょうか。でも秋は物思いにふける季節ですね。11月になりクリスマスめがけて一気に街が動き出したように感じます。暖炉の火を囲んで静かな夕べを過ごすベルサイユのドメストル家を想像しています。

Avec toutes mes amitiés. 友情を込めて。

信子

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