わたしのふらんす⑩ フレンチ・マダムの会話力

わたしのふらんす
©エクリールKayo

「月曜のウォーキングを再開しましょ」
「6月以来ね、久しぶりにお茶しましょ」
「リセの父母会の前に近況報告しない?」

夏のバカンス明けて以来、近所の友達よりお誘いが多い秋です。フランスに20年近く住んでいるというのに、未だに流暢とは言えないフランス語を話すわたしを仲間に入れてくれることがひたすらありがたく、多少スケジュールが押していても、「ウォーキング? 行きます!」「 お茶? 飲みます!」と二つ返事するわたしです。

聞く、そして話す

このようにお付き合いしていますが、わたし以外の他の女性たちも、「昔からの仲」とかではない、ちょっとしたお付き合いです。それなのに、会うとすぐに会話が流れ出し、歩いているときでもお茶飲んでいるときでも、いつも誰かが話している状態です。時折、「人の話、ちゃんと聞こうよ」と思うこともありますが、彼女らなりの流儀で会話は盛り上がっているのでいいのでしょう。

毎回感じるのは、フランス人は自分の意見を述べることをためらわない、ということ。発言慣れしていると思うのです。ゆえに、会話も沈黙などなく、ぽんぽんと発言があるという。

日本だと、「人の話をちゃんと聞け」と教え込まれますが、フランスでは、「自分の意見を言いなさい」という方に重みを置かれているように感じます。
うちの子どもたちは思ったことを言葉にしないタイプだったので、そこの部分を何度も指摘されました。わたしのかつてのMBA留学の時も、発言することが重視されていたので、物静かなアジア系はその点においては不利な立場に置かれていましたっけ。

そうそう、日本では、遠い昔、就職活動をする前の教えとして、「グループ面接の話合いでは、口火を切ってはだめ。協調性を見られているから、聞き上手をアピールすること」と言われたことも思い出します。

そんな擦り込みもあるせいか、地元の友達との集まりでは、わたしは聞き役になることが多いのですが、彼女たちから得る情報は貴重です。
……ここで「得る」と書きましたが、そういうことですよね。聞くということは「得る」こと。ならば、やはり、わたしも聞くだけではくて、時には発言して、「渡す、共有する」しないと、フェアではないのかな、と思いました。

ギブアンドテイク。バランス。ほどほどに話して、ほどほどに聞く。いや、むやみに口を開くのも煩いですし、聞くこと、受け止めること、共感することも大切だから、聞く7割、話す3割くらいを意識するのが良いバランス?

おぞましい事件がありました

フランス女性が集まると、意外と政治の話が多いということは以前にもお伝えしました。相変わらずそうで、子どもの話、ローカルネタ、映画、ドラマの話と同じ並びで政治の話に花が咲きます。

直近では、仏パリで19歳の女子学生がレイプ・殺害され、遺体を公園に遺棄された痛ましい事件が専らの話題でした。被害者のフィリピ―ヌさんはベルサイユ近郊の出身で、ベルサイユではガールズスカウトでも活躍されていた方。事件を身近に感じることもあって、みんなそれぞれの思いをぶちまけます。告別式もベルサイユにあるサンルイ大聖堂で執り行われ、ウォーキング仲間も参列してきたそうで、その報告もありました。

この事件、加害者はモロッコ人で、すでにレイプで前科があります。監獄での刑期を終え、強制送還の書類待ちだった(なぜ準備できていなかった?)とかで、待機をしているべきところを、逃亡して再びおぞましい犯罪に手を染めたという。

若きフィリピ―ヌさんの無惨な死と、不法移民が多い国籍の人が加害者だったこと、そして本来防げたはずの事態が起きたことからフランスの保安面の脆弱さが露呈し、フランスでは怒りの声が挙がっている。
……以上が、ウォーキングで知った事件のいきさつです。でも、さらに会話は続きます。

「親御さんのことを思うとやりきれない」
ほんとに。
「フィリピ―ヌと同級生の子を知ってるけれど、落ち込んじゃって心配よ」
うん、そうだね。
「これで移民対策変わるかしら」
中東・アフリカの戦禍を逃れてくる人が多いだろうからどうだろう。
「フランスは強制送還の率が、欧州でも桁違いに低いのよ」
そうなんだ、全然知らなかった!
「ルタイヨーに期待できるかしら」
……誰それ?

はい、調べました。ルタイヨーとは、新しく内務相に就任したブルーノ・ルタイヨー氏のことです。恥ずかしながら、新閣僚の名前と役職、まったく記憶になく。日本の閣僚に関しても同様なことをここに告白します。友の言葉は続きます。

「ルタイヨーは法と秩序の強化、移民法の厳格化、有罪判決を受けた外国人の強制送還の容易化を公言してきた人だから、頑張ってもらわなくちゃ」
……そこまで知っているなんて、みんな政治への関心が高い! 

批判のマナー、会話のマナー

地元の友達は、ベルサイユという土地柄、中道右派な見解が多いのですが、左派の政治家や論客に関してもしっかり聞いていて、「あの人は言ってることはまともなのよ」「博識を超えた頭脳を持っている人」なり、「空論が多いけれどスピーチ力は素晴らしい」など、賛同しない人であっても、真っ当な評価をします。

また、数人でおしゃべりすることが多いのですが、みんなと違う意見を持っている時は、タコのように口を尖らせ、「そうかなぁ」と意思表示したり、自分とは違う意見がある時こそ話をしっかり聞き、それから一気に自分の思うところを話し、その後で質疑応答に入る、みたいな段取りがあって、フランス的議論の流儀はこれなのか、と学ぶ思いです。

特に「タコくち」や、首をグイっと引いたり、肩をすくめたり、というジェスチャーは、無言ながらも「同意できないわ」という意思表示となっていて、その機微の付け方が巧みだわ、と感心しています。

日本も変わってきましたね

昨今は、サロンを主宰していることもあり、日本の女性たちと交流する機会が増えました。皆さん、会話上手ですね。昔あったような、自己紹介のあと誰かが口火を切るのを待ってシーンとする、とかはなく、自然に会話が流れ始めるようになりました。また、日本では政治バナシはしない、と聞いていましたが、それも総理大臣が変わるごとに、変わってきているような印象を受けます。

もう日本の女性たちも、「聞き上手」だけではいられない、いたくない、というフェーズに来たように感じますがどうでしょう。

コミュニケ―ション能力が高い日本の女性たちのこと、きっと思慮深く賢明な話法で政治バナシに花を咲かせるんだろうな。でも、時にはフレンチ・マダムに成りきって、タコぐちやちょっとしたジェスチャーも使ってみてもいいかもしれませんよ、……なんてね。
わたしも、皆さんの会話についていけるように、閣僚の名前くらいは把握するようにしないと。
日本も新政権が誕生したし(入れ替えがありそうだけど!)頑張ります!

タイトルとURLをコピーしました