往復書簡⑦ 親愛なる信子さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリールMiki

10月18日、ベルサイユ

 曇り空の朝を迎える中、お便りしています。昨晩の雨はひとまずは止んだようでほっとしています。
 先週は、パリの空港からお手紙をありがとうございました。短い期間に東京とフランスを行き来されたとのこと、大変でしたね。時差など大丈夫ですか?

 お手紙には、義母様とのお別れを通して、フランスにも家族がいることを実感された、とあり、羨ましい思いで読んでおりました。わたしは、義理の家族にそこまで迎え入れられていないかなぁ。お互い礼儀正しく付き合ってはいるけれど、家族的な愛情を感じたことは、ない、ですね。義理の家族と一緒にいると、どうしてもアウェイ感を拭えずにいることをここに告白します。

 長いこと、彼らの考え方や慣習をわかりたい、と頭を働かせ、観察してきたのですよ。おかげでフランスの上流階級の文化を随分学ばせてもらいました。暮らしにおける美的感覚などは本当に勉強になっています。でも、どうしても納得いかない考え方があったり、どうしても理解できないこともあって、ぐるぐると考えてしまうことも……。
 でも最近は、もういいかな、と手放しています。わかろうとしなくてもいいんだ、と思うと楽になるものですね。果たしてこの姿勢が正しいのかわからないのですが、しばらくはこれで行こう、と思っています。

 信子さんは、今、フランス語を教えるというお仕事を大切に考えられているのですね。素晴らしいな、と思いながら読んでおりました。フランス語力という点においても素晴らしいですし、「手助けをすることが好き」という点も素晴らしい。でも何よりも、ご自分への理解が深まっていらっしゃることがとても素晴らしい、と思いました。
 自分のことって意外とわからないものではありませんか? 分かっているところも沢山あるけれど、「わたしは、本当に何がしたいのだろう」ということが「しなくちゃいけないこと」「したらいいこと、得なこと」などとごちゃ混ぜになってしまったり。 
 わたしも、もっともっと自分のことをわかりたい、と思っています。本を読むことも、そして書くことも、そこに繋がっているのかもしれません。自分をわかるようになったら人のことももっと理解できるようになるのだと思います。(もしかしたら、今は投げ出している義理の家族のことも、いつかわかるようになるのかも?)

 さて、息子たちが家を出る前にしてあげたいことについてお尋ね頂きました。長男は一昨年前から寮暮らしとなっているのですが、18歳の誕生日に、今まで撮っては放置していたデジタル画像から写真を選び抜き(350枚だったかな?)、プリントアウトしてアルバムを作って上げました。思い出してもクラクラがしそうな、それはそれは大変な作業でしたが、成人になる彼に「あなたの子供時代の思い出」をプレゼントしたかったんです。次男も来春18歳になるので、再び頑張らなくては。

 あとは何をしてあげたいかなぁ。「子ども達が自分でできるように手助けするのが子育て」と信子さんが書かれているのを見て、そうだった、と思い出させられました。わたしもそれを意識して、息子たちが幼い頃は彼らの背丈に合わせたところに服掛け用のフックを付けたり、本棚も作ったのよね、と。今は何だろ。わたしが手助けしてあげられること、まだあるかしら。……考えてみたいと思います。
 
 フランスは明日から2週間の秋休みに入ります。でも空模様が怪しくて。パリはセーヌ川の水位もかなり上がっているようです。信子さんも、旅の疲れをしっかり脱ぎ捨てられますように、ご自愛くださいね。

かしこ
美紀

追伸、写真はベルサイユ宮殿で撮ってもらった写真です。トリアノン宮の前だったかな?

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