往復書簡㊳:親愛なる美紀さんへ

わたしたちの往復書簡
©ペレ信子

6月20日 サルデニア島にて

少し早めのバカンスに来ています。地中海の島にはなぜかとても惹かれるものがあって、数年前から少しずつ、マヨルカ島、コルシカ島と訪ねてきましたが、今回はサルデニア島。この3島は気候的にも見られる植物や景観も似ているのですが、それぞれスペイン、フランス、イタリアと所属する国が違うだけで食べ物が全く違って、そうすると食周りの文化やインテリアも違ってとても面白いのです。

さて、少し早く夏休みを取ったのはいろいろ理由があるのですが、一番の大きな理由は娘の大学の卒業式に参加するため。フランスの学校って入学式も卒業式もなく、卒園、卒業する我が子の誇らしい姿にそっと涙する、なんて場面がないのが寂しくもあり、というのが当然だと思っていたのですが、この頃の大学はアメリカナイズされてきたようで、大きな会場を借りて卒業式を盛大にやるそうです。

娘や周りの友達も今まで卒業式を経験したことがないので、みんなアメリカの卒業式のビデオを観て予習しているそう。ガウン(娘の大学ではガウンは着ないで、大学の名前が入ったサッシュを首からかけるのだとか)の下にはドレスやスーツを着ている学生が多いらしく、卒業式後にカクテルパーティーも予定されているそうで、日本の卒業式とはまた違った嗜好らしいのです。

親は卒業証書をもらう我が子を会場で見守ることができるそうですが、アメリカ風卒業式を知らなかったので、ふだん着ている洋服にちょっとアクセサリーでもつけようかと思っていたら「ママはどんな格好をするの?」と確認されてしまい、焦ってスーツケースに小綺麗な服を忍ばせました。

今まで卒業式、入学式、など日本の友人たちが子育ての段階を踏んでいくのを横目で見ながら、半ば開き直って何の式も無いフランスのやり方に合わせていました。でも考えてみると自分が経験した入学式や卒業式では心新たに何かを始める決意をしたり、何かが終わる瞬間を寂しさと共に見届け、一緒に過ごした友たちへ別れを告げる節目として大切だったのでは?と感じるのです。

確か美紀さんとの共通の知り合いの方が翻訳を手がけた「サードカルチャーキッズ」という本の中で以前読んだ「あえて、きちんとさよならさせる」というくだりを今回の卒業式に際して思い出しました。

東京のリセもそうですがインターナショナルスクールにいると、駐在員のお子さんが多いので2、3年ごとに友達との別れがあります。せっかく親友ができたのにその子は他の国へ。と言う悲しい出来事を何回か経験すると、誰かと親友になってもすぐに別れが来るのだから、傷つかないように、深入りしないように子供なりに自分の気持ちを調整するようになるのです。

可哀想だからあえてさよならを言わせないで曖昧にする、と言う態度をとっているとその方が心に与える影響が大きいとのこと。悲しいことを悲しいこととして体験させる、そして泣いてさよならして、心が次に行く準備をさせる、と言う考え方に共感したものです。実は子供だけではなくて私自身も大好きな友人との別れが何回かあり、同じような気持ちになっていたのでした。

フランスの6月、7月は明るい夏の日差しの中、実は学年末の少し寂しい季節ですね。美紀さんはどのようにこの時期をお過ごしですか?

もうすぐフランスに戻ります。家族の用事などいろいろあるのでゆっくりパリの街を歩けるのは少し先になりますが、美紀さんとベルサイユでお会いできる日を心待ちにしています。

お忙しい毎日とは思いますが、お元気でお過ごしくださいね。
A bientôt!

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