往復書簡⑬ 親愛なる信子さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリール

 12月6日 ベルサイユ

 久しぶりにお手紙をしたためているような気がしています。お元気でらっしゃいますか?
 お手紙にあったパンデピス、画面からはちみつの香りが漂ってきそうで、じーっと見つめています。お茶の時に召し上がるのですか? それともパテのようなものと組み合わせて召し上がるのかしら。。

 前回はノエルについて愚痴を書きましたが、その罰が当たったようです。今年は、わが家に義理家族・親戚が集合することになってしまいました。ここまで揃うのはコロナ前のことで、テーブルはどうする、シャポンは2羽? ビュッシュは? と、自分から「どうぞ」と申し出たくせに「うそ、皆来るの? 」とあわあわしています。

 そういえばノエルのプレゼントについて、「意外とシンプルなのでは?」とお尋ね頂いていますが、いえいえ、とんでもない。
 フランス人の、ノエルのプレゼントの大盤振る舞いは、日本のお年玉を超えてますね。その上、対象は子ども達だけでなく、友達同士でもプレゼントし合ったり、ほんとに寛大で、普段は慎ましいだけに、驚かされます。
 わが夫も然りで、息子たちが幼いころのプレゼントの買いっぷりには卒倒しそうになったものです。積み木に始まって、ミニカー、ミニチュア電車(もちろんレール付き)、レゴ、パズル、ボードゲーム、バンデシネに映画のDVD……。「そんなに一気にあげなくたって、来年に取っておけば?」とわたしが止める声は聞き入れてもらえませんでした。

 思うに、夫もノエルのときはプレゼントのシャワーを浴びたのだと思います。以前書いたように、夫は厳しく育てられたのですが、ノエルの日は例外だったのでしょう。また1月生まれなので、ノエルに誕生日分も上乗せしてプレゼントを貰っていたのかもしれません。
 ノエルの日は、いつも子どもは禁止のサロンにも、パジャマ姿のまま入ってよくて、キラキラに飾られたもみの木の、その下にある積まれたプレゼントを、包み紙をむしり取るように次々と開けて、その後は大人も子どもも気飾って、大午餐会ではシャンパーニュがポンポンと開けられ、子ども達もノンアルのシャンポミーを貰って、誰かがピアノを弾き出して、ご馳走があって、姉妹や従兄弟たちがいて、ショコラやボンボンやグミを好きなだけもらえて
 ……そんな砂糖菓子のような一日だったのだと思います。

 子供たちにもそんなノエルを味わせたい、と思う夫の気持ちに長いこと寄り添ってきたのですが、昨今はわたしの中のひねくれ者がむくむくと起き出していて困っています。わたしは、この大切な日を、大切な人達と、気ままに楽しみたい、と思うのです。まさに信子さんたちご家族が過ごしていらっしゃるような、温かい団らんがあるノエルに憧れてしまうのです。
 昨年はゆえあって、そんなノエルを過ごすことができて、最高でした。今年ももしかしたら、と期待していましたが、そうはいかず残念!
 でも信子さんからのお手紙を読みながら、覚悟が固まってきましたよ。こうなったら、ノエルの大午餐会を悔いが残らないようにやり切ろうと思います。確かに、こういう午餐会での振る舞い方や会話を見聞して、わたしの中にフランス文化が浸透してきたのでしょう。ならば、今度はそれを仕切ってみる、というのもわたしにとっての試金石。頑張ります!

 それに、わたしの前には、日本への帰省というニンジンがぶらさがっていますから、頑張れるはず。来年早々に、信子さんと初めて、リアルでお会いできるのですね、今から楽しみで仕方ありません。

 そうだ、信子さん、読者の方にもお知らせしちゃいましょうか。

 2月2日に、信子さんとご一緒に、渋谷の天狼院書店カフェにてテーブルコーディネートとマナーに関するイベントをします。詳しくは、こちらのリンクをご覧くださいませ。
 「大切な人と、素敵な時間を過ごす食卓」――そのためにはどのようなことを念頭においてテーブルを創ったらよいのか、信子さんに教えて頂きたいと思います。わたしからは、食卓での会話やマナーについてご紹介させていただきたいと思っています。
 フランスの食卓文化には、日本でも取り入れたら、きっともっと豊かな時間や関係が生まれるだろうことが幾つかあります。
 ご興味をお持ちいただけたら幸いです。

 さてさて、ここからノエルまで、お互い忙しくなりますね。こちらはインフルエンザが蔓延しているようです。コロナの後、マスク文化はほとんど廃れてしまっていて、残念に思っています。とにもかくにも、風邪など召しませぬよう、ご自愛くださいね。

かしこ
美紀

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