わたしのふらんす⑭ カップル文化の現実

わたしのふらんす
©エクリール

 フランスはカップルで行動するのが基本、というのはよく知られたこと。ここベルサイユでも、若いカップルのみならず、熟年夫婦や白髪の老夫婦でも、手を繋いで歩いている二人をしょっちゅう目にします。
 
 ただ、手を繋いでいるから雰囲気良し……でもないのですよね。
 全体的な傾向を見ると、ムッシューは極めて「フツーな表情」というか、漫然としているというか。
 一方のマダムは、散歩しているのに眉間にしわを寄せていて、今にも孫のいたずらを見つけて叱りつけそうな、そんな顔つきだったり、脚はゆったりと動かしているけれど、視線は遠くを見ているというか、こころはここにあらず、な感じだったり。

マダムの実情

 これ、わたしはわかるような気がするのですよ。

 マダムは、忙しく生きてきた人なのです。職場でも、家庭でも、パンパンに忙しくて、いつも頭の中では「クライアントから聞かれたら答えられるように準備しなくちゃ」「今夜のご飯は」「明日のパンは」「夜泣きされた時にすぐにミルクあげられるように」「風邪引かないようにしはくちゃ」「バカンスの予定を立てなくちゃ」「子どもの習い事を申し込む根まわししなくちゃ」「今夜はディナーだから綺麗にしなくちゃ、魅惑的にしなくちゃ」
 ……頭の中は「しなくちゃ」だらけ。長年に渡って先回りして仕事をこなし、家庭を回し、女をやってきたのです。それで、「しなくちゃガオ」が「平常の顔」になってしまったに違いありません。

ムッシューの実情

 一方のムッシューだって、忙しい方だったに違いありませんよ。仕事をするって大変なことですもの。また家庭のことも、「奥さん任せ」は許されないのが今のフランスですから家事・育児もやってきたことでしょう。
 でもやはり男の人は楽。日本ほどではなくてもフランスの男性も、家のことを主体的にやっている人は少数だと思いますし、女性ほどのケア・アンテナを張っている人は稀有だと思う。
 あと、これはルッキズムということになるのかな、男性の場合は、年取っても自然体でいればいいですよね。太っても痩せても白髪でも禿げても女性ほど影響がない。
 要は雑音を気にせずに生きることができた人が多いと思うのです。

カップルの実情

 そんな二人が、週末には連れ立ってマルシェへ行き、ディナーに招かれ、映画も観に行く。日曜日のミサにも一緒に行くし、バカンスにも夫婦水入らずで出かけます。
 ロマンチック? 昔はそう思っていましたが、もうそんな純なわたしではありません。フランスに長く暮らす間に、アイロニー気質を鍛えられてしまいましたよ。手繋ぎカップルを見ると、二人のこころはどこまで重なっているのかな、と考えてしまうようになりました。フランスは離婚率も高いですからね。

フランスの離婚率:フランスの離婚率はなんと45%。フランスはカップル文化の国なのに、離婚率は高いのです。フレンチ・パラドックスに、また一項目増えてしまいました。
いつも連れ立っていた夫婦なのに、翌月に会ったら、「離婚したのよ」と笑顔で伝えられた、というのはよく耳にする話。
そして、離婚を切り出すのは女性側が75%、とのことです。

(参照ソース:SSER (Service de la statistique, des études et de la recherches) du Ministère de la Justice

険しくならなくてもいい

 ある週末、素敵な夫婦に出会いました。
 ベルサイユに住む友の家でのアペリティフ・パーティー、通称「アペロ」でのことです。こういうパーティーも、もちろんカップルで出席します。ただ、パーティーでは夫婦はバラバラに行動する、という暗黙の了解もあって、ディナー・パーティーであれば、着席位置もバラバラに離されることがほとんどです。この慣習も、わたしにはよくわからないのですが、ま、脇に置いておきましょう。

 この集いで、わたしが惹きつけられたのは、長い藁色の髪を無造作に垂らし、音楽に耳を傾けていた女性です。髪型、顔立ち、ラフに羽織ったソフトなジャケット、全てが馴染んでいていい感じ。みんな声高で会話に高じるなか、彼女は笑顔で応答しています。表情豊かで、笑うと、野の花がぱっと開いたような柔らかい艶やかさが。わたしの下手なフランス語に耳を傾けているときも、しっかり感受してくれる。ご自分のことを語るときも、虚勢を張ることなく、自然です。
 途中、ご主人がわたし達の会話に加わりました。圧がなく、堅苦しさもなく、フレンドリーで面白そうな男性です。奥さんに対しても、「なんか飲む?」と聞いてあげて、「お水欲しい」と言われたらさっと取りに行ってあげて、そのやり取りが自然でGood!
 さらにいいな、と思ったのは、彼女の所作が変わらないところです。パートナーが隣に来ると、気を遣い出したり、髪をかき上げて女っぽさをアピールしたり、いちゃいちゃしたり、逆にイライラしたり、という女性も多いのですが、この彼女は終始自然体なのです。

自然体のカップルでいたい

 パーティーの帰り道、社交疲れもあり、自由連想タイムに。夫はそういうとき、放っておいてくれるのでありがたいです。彼も喋りつかれたのでしょうしね。

 ……あの素敵な夫婦は手を繋いで歩くのかな。公園で恋人たちのように手を繋ぐ二人は想像できるけれど、街を歩くときは? 狭い歩道を手を繋いで歩く二人、うーん、イメージが湧かないな。

 頭の中に、ベルサイユの街を手を繋いで歩く熟年夫婦が蘇ります。穏やかそうなムッシューと不機嫌なマダム……。ご主人と一緒でなかったら、マダムの表情は変わるかな。変わんないかな。
 
 そうか、フランスのカップル文化はちょっと強迫的なのかも。パートナーがいることを、孤独ではないということを認識したい・世間に見せたいのかな。……なんて、深読みしすぎか。

 それにしても素敵な女性だったな。老婦人になっても、手を繋いでご主人と歩くとき、もしくは一人で歩くときも、あの彼女は険しい顔はしないと思う。どうしたらそうなれるのかしら。

 キーワードは、「自然体」、それとも?

しなくちゃ病を治さ「なくちゃ」

 「しなくちゃ病」の兆候があるわたし。このまま行ったら、ベルサイユの街で見かける、穏やかムッシューと不機嫌なマダム、だな。そうはなりたくない!

 そのためには、どうしたらいいのだろう、と今日も考えています。

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さて、こちらの「わたしのふらんす」は、毎月2回投稿をしてきましたが、この先は月一度の投稿にしたいと思います。引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。

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