往復書簡⑮ 親愛なる信子さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリール

 親愛なる信子さんへ、

 12月20日、ベルサイユ

 返信が遅れてごめんなさい。 昨日は信子さんへ手紙を書きたくて机の前に座ったのに、年内のやるべきことが「終わったぁ」という感慨に呑まれたのか、文字が頭の中で踊るばかりで。それで一夜明けた今ごろしたためているという次第です。

 「終わったぁ」といっても、大したことはしていないのですよ。ノエルのプレゼントを注文し終えた、とか、リノベーションの段取りがついた、とか、そういう細かい用事が片付いた、というそれだけです。
 このあとはノエルとお正月の料理&おもてなしを考えていれば良し! 雑事はもう知らん、とそっぽ向くつもりです。
 わたしにとって料理は、本来は楽しいアクティビティなのですが、疲れていたり、他にもしなくてはならないことがあると、「義務感」になって楽しくない。そういう日も多々あったこの一年、せめてここからお正月までは、機嫌よく料理を楽しみますぞ!

 前回の信子さんのお手紙に、フランスのご実家では、交流がない方でも、ノエルのお食事に招き、時には泊めてあげる、とありました。親切心溢れるお話に思い出したことがあります。

 もう15年も前の、パリに住んでいた頃のことです。当時は、週末になるとロワール地方にある田舎の家に通っていました。渋滞を避け、金曜の夜にパリを脱出し、夜10時過ぎに到着するというルーティーン、その夜も、長いドライブを終えて着いたのですが……。
 「うそでしょ? 鍵が見つからない?」
  義理の両親は不在で、隠し場所に鍵があるはずなのですが、ない、のです。

 わたしは、町にあるしょぼいホテルでいいから泊まろうよ、といったのですが、夫は「あんなガヤガヤしたところは無理」と言い張る。結局、家族ぐるみのお付き合いがある、超立派なお城の伯爵にお願いして泊めてもらうことになりました。わたしは、その方達とは結婚式で会ったことがあるだけだし、夜更けに幼子抱えて押し掛けるなんて申し訳ないし、お城だなんてとんでもないし、と、ものすごく抵抗があったのですが、そうなりまして。

 後日、この話になると、誰も「あらら、そんなことしちゃったの?」という感じはなく、その状況に於いては知り合いにお願いするのは普通なこと、ってなもので、夫も、「部屋はルネッサンス様式だった」とか言っちゃって。わたしにとっては、居たたまれない、恥ずかしい、至って肩身の狭い思い出だったというのに。
 
 でも、信子さんのお手紙の、「知らない家に泊まっても大丈夫な社交性と礼儀を身につけた客側」という一文を読んで、あ、となりました。もしかしたら、あの時のわたしは、肩身の狭さを前面に出すばかりで、「扱いに困っちゃうお客さん」を演じてしまったかも、社交的に振る舞えていなかったかも、と。
 
 考えてみれば、うちも、親戚やその友達を泊めてあげることがありますが、そういう時は、「面白い展開だわ」と、その偶発的な出会いを楽しんでいるのです。泊ることになったお客様は、ホスピタリティーに感謝の意を示されたあとは、ご自身が何を生業にしている、とか、何の勉強をしている、とか、今回はこういう流れでこちらに来た、とか、時にユーモアを交えながら、さらりと話されます。知らない方の境遇や考え方に触れることは興味深いものですね。
 受け入れる側はそんなものなのだから、押し掛ける方も、変に委縮せずに、「お世話になります」とすっと頭を下げ、あとは社交的に振る舞う方がエレガントね、と、信子さんのお手紙のおかげで気づくことが出来ました。そして、そうできなかなった過去の自分に反省、です。

 思うに、わたしは、人に迷惑をかけることを、とても恐れているところがあります。これは日本人的な心情でしょうか。信子さんはそんなことありませんか?
 その一方で、わたしの周りには、日本でも、フランスでも、惜しまずに手を伸ばしてくれる人が多くて。信子さんもそうですか? 実は、この世には助けることが好きな人は多いのではないか、というのが50年以上生きてきて感じていることです。ならば、必要なときは助けてもらえばいいんですよね。わたしもそう思えるような素直さを、そして謙虚さを、身に着けたいものです。

 ……とりとめもないことを書き連ねていますが、お許しくださいませ。まだ昨日の余韻というか、今年の終わりに、こんな平和でのんびりしたひと時があることの、歓びに浸っています。そうでなかった年もありますし、ギリギリセーフでここまで乗り切ってきたところもあります。あぁ、2025年はどんな一年になるのでしょう。信子さんは来年の抱負はありますか?

 そうそう、2月2日には、渋谷にて、信子さんとコラボ・イベントが予定されていますね。読者の方にお目にかかれたら嬉しいな。詳細はこちらになります。

 わたしからのお便り、次は新年になりますね。 一年が過ぎるのはなんて早いのでしょう。
 
 素敵なノエルを、そして、どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。
 Joyeux Noël !

かしこ
美紀

追伸:写真は、シャンゼリゼ大通りです。フロントグラスのくすみをお許しくださいませ。

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