往復書簡㊳:親愛なる信子さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリール

6月15日、ベルサイユ

やってしまいました! ごめんなさい、この日付けは、ほんとうなら「13日の金曜日」であるべきなのに、わたしったら投函をうっかり忘れてしまったのです。木曜日まで覚えていたのに、翌日にはすぽっと抜けてしまった。金曜日のお手紙を楽しみにしてくださっていた読者の方がいらしたら、申し訳ございません。

6月は、多くの方々と会える楽しい月でして、そんなことも、「投函忘れ」の理由の一つかもしれません。
日本からフランスに旅行に来られる方々が拙サロンにご参加してくださったり、フランス在住の方々は夏を日本で過ごす方が多く、帰省される前に「会いましょ」と声を掛けてくださったり。

人と過ごす時間が、以前よりもありがたく思えるこの頃です。「わたしが、このサロンが、この方達の記憶の一部になるんだなぁ」と思うと、貴くすら感じられて。これを聞いた友人からは、「いやだ、年寄りみたいなこと言って」と笑われましたが、うん、年を感じますね、最近。

信子さんも、以前、思考スピードが落ちたように感じる、と書いていらっしゃいましたね。話し方もゆっくりになった、ともありましたっけ。わたしからみると、信子さんはいつもチャキチャキとテンポが良くて、まったくそんな印象はないのですが。ふふ、若いころの信子さんに会ってみたかったなぁ。でも、わたしたち、若い時に出会っていたら、今のように友達になれたのかしら。今以上にまどろっこしかった若い頃のわたしに、信子さんは呆れてしまったかもしれません。

でも、若い時のことよりも、今、気になるのは、これからの年月。
日本の母やこちらの義母や義叔母などが80代、90代に突入する過程を見てきて、考えさせられるのです。
好奇心を失わずに学び続ける方、一日中テレビの前にいる方、ネットでゲームを楽しむ方、人付き合いをしなくなった方、愚痴を言わないようになった方、愚痴が増えた方、ネガティブになった方、穏やかに日々を過ごしている方……実に様々。信子さんもお手紙の中で、「活動範囲も好奇心もしぼんで殻に閉じこもっているように見える」方達について触れられていましたが、うん、そういう方も多いですよね。

80代も半ばになると、子育ても介護も、キャリアも終焉している。「ひとり」に戻ったときに、抜け殻になってしまう人と、満ちている人。この違いはどこからくるのかしら、と考えるのですよ。

話が飛ぶようですが、インスタグラムなどのSNSで、50代以降の英語圏の方のプロフィールを見ると、自分が何者かを定義した書き方が目に付きます。「母、妻、職業(女優など)、志向(フェミニスト、とか)」といった感じです。
面白かったのはジュリア・ロバーツ氏。ひと言「Human」とありました。

さらに逸れていいかしら。
この「プロフィールの書き方」、フランス人の場合はどうなのかな、と思って、ソフィー・マルソーなど、思いつくがままに2,3人のアカウントを見てみると、職業上のプロフィールのみの記載となっています。プライベートな自分は見せない(写真見ると見せているようではありますが)ということなのでしょうか。米英とフランスの意識の違いが感じられて面白い!

でも道草はこのくらいにして、戻ります。
寿命が延びる一方の今、80代、90代、100代(!)……。
「母、妻、ビジネスウーマン」と定義していた人達も、その頃には、母親業はとっくに終了しているでしょうし、もしかしたらもう妻でもないかもしれないません。仕事も引退して久しいでしょう。
何者かであった人達も、漏れなく、ひとりの素の人間に戻るんですよね。(そういう意味でジュリア・ロバーツのHuman は鋭いのかも?!)

そのとき、わたしはどんな人でありたいのだろう、と考えるのです。母親業は終了し、仕事も終焉している80代以降の、素のわたし、個のわたし。抜け殻にはなりたくないのはもちろんなのですが、「じゃ、どんな人でありたいの?」と自問しています。

そこを抑えておくことで、今すべきことが明確になると思うのですよ。
イメージとしては、自分の中の一本道。長い道のりの先に見えるものは何? そこまでの道のりも、どんな景色であってほしいのか。自分の人生をフランス式の庭園にたとえるのなら、自分の「パースペクティブ」を持ちたくて。

分かりやすい例を挙げると、信子さんの前回のお手紙には、「80代の美紀さんも、元気に新しいことを考えていそう」と書いてくださっていましたね。もしわたしがそうありたいのなら、今から、考え続けられる「土壌づくり」をしなくては、となる。そのために今のうちに、何かを学び直さなくちゃ、とか、そういう計画できるでしょう?
そんな感じで、ゴールが明確であれば、逆算的に、今から大切にすべきことが明確になると思うのです。

信子さんは、「新しいことに興味を持ち続ける80代を」とありましたね。なんて素敵でしょう。その頃もこの往復書簡が続いていたら、素晴らしいことですね。目指しましょうか、超ロングラン!
そんな話も、7月の再会の際にできたら嬉しいです。ベルサイユにいらしてくださる日を、今から心待ちにしています。
安全な旅路を祈りつつ。

かしこ

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