先週は話す言語によっての論理の組み立て方の違いについて美紀さんからお話いただきました。話す言語とそれによって人の思考が影響されるのかという問題、実はこの7月まで、もがきながら書いていた修士論文にも一部書いた内容なのです。日本人の日本語教育、フランス人のフランス語教育。本当に違うなあと美紀さんの問題提起で実感しました。たくさん書きたいことはあるのですがなるべく主題に絞って書いてみますね。
まず「論理国語」と「文学国語」のこと。お恥ずかしながら美紀さんから問題提起されるまで最近の日本語教育の傾向について知らずにいました。「論理国語」と分類される「契約書」「取扱説明書」などの文章が大学受験の試験に出題されたりしているのですね。それに伴い、問題を作るのも採点するのも難しい「文学国語」の割合が少なめになったりしてるそうですね。
現場の話が聞きたくて、国語教師の知り合いに聞いてみたところ、学校での科目名は文科省指定の通り「論理国語」と「文学国語」に分かれていても現場では両方の境界線があやふやになってしまう事も多く、この境界線に疑問を持つ教師も少なくないとの事でした。いわゆる「文学国語」で全く論理的な分析をしないわけではないそうです。彼女と話しているうちに「論理国語」という名前に少し違和感を覚えました。「実用国語」という方が適当なのではないかと。
フランスの国語の時間で、ロマン主義作品で昔から高校生の課題図書に上がる「クレーヴの奥方」(奥方の不倫と彼女の揺れる感情の描写が有名)でさえも、センチメンタルに流されず、作家が主人公のセリフや行動を通してどのように主題や問題提起を表現しているのか、きっちり論理的に分析させますね。フランスの作文や論文を書くときに必須の「introduction(序), thèse(是), anti-thèse(反), synthèse(合)」という形式に則って。
このフォーマットが決まっていること、最初は窮屈に思っていました。でも2年間の修士課程で論文など数百ページをフランス語で書いてみて気づいたのです。これ、決まってる方がありがたいって。
あるアイデアが浮かんだ時、それを相手に納得させる形で書くにはこのフォーマットに当てはめていくとスムーズにできるんです。
個人的にフランス的だと思うのは、結論で序の問題提起に答えつつ、論文を書きながら生まれてきた次の問題提起に言及すること。今書いている論文も完璧ではない、と示す。
息子さんたちは学生なのでこのフォーマットをいつも使っていて慣れているのですよね。それに対して、私たちが日本で学生の時に書かされた作文や小論文ってこんなにきっちりフォーマットが決まっていませんでした。でも自由なだけに構成が難しかった記憶があります。
それじゃあ口頭で議論するときはどうかと考えてみると、フランス人はこのフォーマットを使っている人が多い印象ですが、けっこう時系列型もいる気がします。たとえば100%理系の私の夫は美紀さんのように時系列で説明してきます。科学的な彼にとっては自分の意見を構成する全ての要素に、時間的な順番を添えて言及したいのだと思います。研究ノートのように。私の方がフランス式を使ってます。
彼の母も時系列の人で余談(entre parenthèses)が多くて道筋を失わないように話について行くのが大変でした。こちらはおしゃべり好きだったからかな〜(お義母さん、ごめんね)。だからこれは日本語、フランス語の問題なのか個人的なものなのかちょっとわからないです。
ただ言語がその人の考え方に影響を及ぼすということは論文にもなっています。言語教育学者のGeneviève Zarateが外国語を学ぶというのは他者を認め、そこから外国語の考え方を一部でも取り込むことで自分という存在を顧みることになり、自分自身を変容させることにつながると言っています(”Représentations de l’étranger et didactiques des langues”)。また、自分の内側に、外国語の考え方を真に取り入れるためにはその良さを自分が認めるだけでなく、他人にそれを広めるmédiateur(仲介者)になることが有効だと言われます (J.-M. Mangiante “La démarche interculturelle dans la didactique du FLE : quelles étapes pour quelles applications pédagogiques ?” )。
そういう意味では、フランスに住んでフランス人と暮らし、フランスについての教養や情報を日本の方々に提供する美紀さんは、もともとの自分から変容した自己を持つ仲介者と言えると思います。そして日本に住みながら同様にしている私もそう。フランスの良さを他の人に伝えていくのが好きなのですから。
もしある国の良さを他の人に語ったり勧めるようになったら、あなたはもう以前とは違う自分に変容したということなのでしょうね。
美紀さん、フランスと日本の思考法について考える機会をいただき、ありがとうございました。次回は私がこの夏のフランスでの体験をもとに、日仏の差について考えたことをテーマにしますね。

