わたしのふらんす ⑥フランス人が好きな話題とは

わたしのふらんす
©エクリールKayo

「わたし視点」で書くフランス、今回はフランス人の思想・政治への思いについて、です。フランスで暮らすようになってもっとも意外だった点が、この政治や思想が生活と密着している点でした。

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恋の話よりも……

フランスといえば、モード、美術、美食。ブランド帝国ですし、レストランも多いし、ゆえに、どちらかと言えば消費文化の国なのかな、と思っていたのです。
でも友達ができて、お付き合いが始まるとノリが悪いというか、どこかメンドクサイ。
例えば、当時住んでいた16区のショッピング街でソルドがあるよ、と誘えば「そんなブルジョアの街へは行きたくないわ」と言われたり、週末に会おう、というから映画でも見るのか、と思っていると、デモへの参加に誘われたり、と目を丸くすることが多々ありました。

カフェでおしゃべり! という場面でも、恋愛バナシかしら、と思いきや、社会・政治バナシで白熱! 政治・宗教・お金は、会話の三大タブーと言われますが、いやいや、フランス人、政治バナシは大好きですよ。

「下院選挙、10人に6人が、職場で政治について話している」

この見出し、つい先ほどXで見かけたフランスのニュース(BFMTV)のツィートです。
6月上旬にEU議会の選挙があり、そこで右翼政党が圧勝となったことを受け、マクロン大統領が唐突に下院の解散&選挙を宣言しまして、それからというもの、フランスは政治一色・選挙一色となりました。来月に開催予定のパリ五輪のニュースはぐっと脇に押しやられた感あり、です。このニュースを読むと職場でも政治談議されている(コーヒーブレイクとか社食で、ということだと思うけれど)のですね。
相方さんも、「先日のビジネスディナーでの話題は、仕事のことよりも政治のことだった」と苦笑いしていました。

日本ではこの点どうでしょう。職場で政治の話、されますか?

EU議会選挙では極右政党が圧勝! でも右派とは言えない?

ちなみに、今回は極右政党併せて約37%を獲得したので、10人いれば3、4人は右翼とされる政党に投票したという計算になります。相方さんのディナーでも、2,3人は右派政党に投票したのでしょうが、それを公言する人はいなかったそうです。ディナー参加者は、「首都圏に住むホワイトカラー」とカテゴリーしていいと思うのですが、そういう階層において今日の段階では、右派支持だ、と言うとどう思われるか微妙だから隠しておこう、となるのでしょう。
わたしの周りでは、極右といわれる政党の主張の一つ一つには、「まあ、こう犯罪率高くて国庫火の車となると、移民制限も仕方ないよね」とか「EUも、フランスの持ち出し多すぎる」と同調している人も多く、ただ投票となると「いやぁルペン(極右政党の長)はちょっと……」とお茶を濁しています(でも多分投票したのではないか、と思われます)。

左派が主流とされるパリ?!

一方、声高に聞くのは、極左を含む左派の声です。左派の言うことは正論ですものね。誇りを持って「左派です!」と言うその姿勢が声高に感じられるのかもしれません。日本では「共産党支持!」というと、「うわ、左か」という抵抗があるようですが、フランスでは全くそんなことはなく市民権得ています。
共産党もさることながら、近年でいえばミッテランの社会党が長いこと政権にいて、その後中道右派のシラク、サルコジもいたけど、また社会党のオランドに戻って、今のマクロンも社会党出身でしたし、「社会主義色強いなぁ、まぁ最近は多少薄まっているけれど」というのが、わたしの印象です。

政局以外でも、フランスは、アメリカと比べるとぐっと高福祉国家ですし、少し前まで国有企業多かったですし、労働者声大きいですし、わたしが知るこの20年余りに関していえば、日本よりは左派色強い、と感じています。

フランスは左派色強い、というこの認識が全くなかったので、来仏当初は戸惑いました。
皆さんは日本人として、他の大国の人に対し、「うわ、やっぱり〇×人って拝金主義だなぁ」と感じるとき、ありませんか?  フランスでは逆に、「わたし、お金やモノにバリュー置きすぎかしら」と自問してしまうときが、未だにあります。
フランスでも拝金主義は侵食しているものの、大義名分として、また信条として、お金より「自由が大切」「博愛大切」「愛が大切」とされ、それを嘲笑する風潮はありません

住む場所も分かれる左派と右派

パリは、左派の多くが東側に、中道右派(ここに極右も増えてきていると思う)は西側に住んでいるんですよ。
下の地図で、この2分された状況をざっくりと感じて頂けますでしょうか。
2020年に行われた地方選挙のパリの投票状況です。赤が左派、青が中道右派です。
パリは小さな市なのですよ。パリ20区と東京23区を比較すると、なんと1:6です。その中でこんなに政治思想が分かれ、そして共存しているというのも面白いですよね。

画像
2020年の地方選挙におけるパリの投票状況。
Par Jules Rohault — Travail personnel, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=91708929

そういう「土地事情」を知らなかったので、パリに暮らし始めた当時、たとえば、東の街バスティーユ付近で人に会うのに、わたしはいつものように、スカートにジャケットを羽織って出かけて行ったのですが、友人に「浮いてるわねぇ」と苦笑いされて、その意味が分からなくて困惑し、一方で、西端の街16区に住んでいたころに、東側に住む友を招いたら、「私はジーンズで行くからね」と言われて、「もちろんどうぞ、なんだけど、なんでわざわざ言うんだろう」、とこれまた困惑したこともありました。

みんな思うところがある、それがフランス人

その昔、日本の感覚で「何かというとストがあって迷惑よね」と、会話の糸口のつもりで言ったことがありましてね。すると「そうね、でも声を上げることは大切よ。あなた、教職員のお給料知ってる?」と返されてしまって。まるで攻撃されたように感じられてシュンとしたことがあります。

今となれば、「そういう話題を軽々しく口にしてはダメなタイプの人がいる」というのも分かっているし、「攻撃しているのではなくて、彼女の意見を述べているだけで、わたしも意見があるのなら伝えたらいい」とわかったのでもう大丈夫なのですが。

そう、なんとなくわかってくるのです。
左寄りの思想を持つ人で、ちょっとメンドクサイ人を揶揄してゴウショ Gauchoと言いますが、何となく「ああ、あの人はゴウショなんだろうな」と分かってくる。別にジーンズばかり履いている、ということではないのですよ。ゴウショさん、真面目で、思いやり合って、寛大で、リベラルで博愛主義者の人が多いように感じます。キリスト教の人もいるけど、そうでない人が多いかな。

一方の右派の人も友達にいます。こちらも真面目で、優しい人達で、何がゴウショと違うかと言われれば、もう少し現実的かなぁ、というところでしょうか。ブルジョア志向でもあるかな。

フランス人すごいな、と思うのは、普通のサラリーマン(女性含む)も、学生も、高齢者も、社会のニュースを追い、それを政治と関連付けて考えられるところです。
例えば、どこかの街で強盗があったら、被害者や加害者の属性を知り、例えば「また移民系の犯罪だ。移民対策がなってないから」とか、「警察官の数が足りないからだ、それはなぜなら今の政権が…」とか、「女性が被害者だ、それはジェンダーの扱いが〇×だから」とか、「若者が加害者、ならそれは教育省が〇×という方針を取るからだ」という風に思考するのですよ。

いずれにせよ、左の人も、右の人も、政治に関心が深く、ニュースもしっかり追っていて、みんなそれぞれの声があるのです。

日本でもそうなったらいいな

日本、政治の話は相変わらずタブーなのでしょうか。
政治ネタ、こんな言い方は不謹慎かもしれませんが、便利なんですよ。

・家族間で……話題がないとき、わたしは政治ネタに逃げ込みます。すると結構会話が回るのです。思うに、政治ネタは、自分のことを話すより、話し易いのかも。
フランスのこと、トラさんジョーさん、そしてプーさんのこと、日本のこともときどき。息子たちも、若者に人気の政治系Youtuberを見てたり、学校でもそういう話をするから、発言が突飛だったりもするけれど、食いついてきます。相方さんも通勤のカーラジオで仕入れたネタを披露したり、わたしも、ネットで得た情報やママ友経由の情報をシェアします。
彼らの思考を知る意味でもよいことだし、とにかく盛り上がります。白熱しないように、疲れないように、討論が行き過ぎないように、そこだけ気を付ければ、お互いの「今」を知る意味でおススメです。

・友達間で……帰省した際に集まる女友達とはときおり日本の政治の話をします。政治ネタであれば、独身も、離婚した人も、子育て中の人も、子どもがいない人も、介護中の人も、専業主婦の人も、お金持ちも、そうでない人も、みんな「違い」を越えたところで思うところを話せ、自分が持っていない視座を知り、お互いの「今」を知ることができる。ほんとに便利な話題だなぁ、と思うんですよね。

・夫婦・カップル間で……長年寄り添っていると会話がなくてイライラするとき、ありませんか。そういう時など政治ネタは沈黙キラーにもなるし、ほんとに便利です。お互いの意見も、遠慮なく話せるから気楽で、「それ、ちょっと陰謀論っぽくない?」みたいなことも言えますし、「いやいや、調べてみるとね……」と言われれば、新しい知識を得ることもあるし、惚れ直したり、惚れ直されることもあるかも?!
政治って、経済であって、社会であって、経済も社会も暮らしと直結することだから、お互いの政治的思想を知ることで(同じでなくてもいいのだと思う)、暮らしそして家庭観も確認もできる、便利な話題だと思います。

今は昔のようにテレビと新聞だけがニュースソースではないから、その分、色んな人の意見に耳を傾けることが大切、ですしね!

そして選挙結果は七夕に

フランスの下院議会選挙は6月30日に一回目、7月7日に二回目があります。なぜ2回かというと、一回目で、まとまった票が取れた候補者に絞り、二回目で少数で決戦するのです。

日本の都知事選も七夕ですね、都民の方々、投票行って欲しいです。

この先は、まず7月4日にイギリス総選挙、そして七夕にはフランスの議会選挙、都知事選、11月には米国大統領選挙と政治ニュース目白押し。

世界が平和な方向へ進みますように、祈るばかりです。

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