往復書簡㊹:親愛なる美紀さんへ

わたしたちの往復書簡
©ペレ信子

東京にて

「暑い」と口にするのもためらうような暑さの東京です。美紀さんの投稿するみずみずしいヴェルサイユの庭や田舎のおうちの庭の写真を見るとホッとします。こちらはどんなに日陰に避難しても暑さが追いかけてきます。

日本に帰国して初めての往復書簡のお便りになります。フランスにいる間はいろんな所に行って、いろんなことを考えました。今回、特に面白かったのは、フランスが自分にとって今は「たまに行く場所」なのに対して、私の子供達や美紀さんのような友人にとってはそこが「生活の場」であるという事実からくる、フランスに対しての考え方や態度の違いについて考えることでした。

私は日本にいる時は、どこか半分フランスに片足を置いたまま暮らしているような感覚があるのですが、フランスにいると日本から足を伸ばしてフランスにお邪魔している感じです。特にフランスに根付いている人たちと一緒にいると、自分の部外者感が強く感じられました。

エスカレーターでどっち側に寄るか、開いたドアを次の人が来るまで支えるのか、お店に入る時に自分から「Bonjour」と声をかけるのか。それらは、フランスに来る前にみんながSNSで目にしたり、旅行経験者から聞いたりして事前に仕入れているフランスの情報ですよね。最初は「フランスにいるのだからその通りやってみよう」と楽しんでやる。でもそれを繰り返しているうちにそれが普通のことになりますよね。つまり、外の人から内の人になる瞬間だと思うのです。

それで、今回はもう一つ先に進んで考えたのです。そうだとわかっていても、あえてやらないって選択肢もあるな、と。

反逆的だと思われるかもしれないのですが、するべきだと伝わってくるフランスの慣習をあえて破ってみる、っていう行動もまたフランスらしいのではないか。なんてね。実際には、フランスにいる時の「お邪魔してます」感を払拭するために、なるべく馴染もうとするのですが、頭の中で「お利口さんで礼儀正しい日本人」のレッテルを剥がすために、ちょっと逆らってみるのもまた良いのでは?などなど考えながら歩いていたのです。一人の時間が結構あったので考えることが楽しかったです。

美紀さんが今年からオンラインサロン・エクリールを始められてから様々なことに挑戦されていてその一環で私も初めてYoutubeに出させていただきました。皆さんが自然体だったので緊張せずに楽しめました。これは新しい挑戦でした。

また美紀さんが日記を通して、モンテーニュの「随想、エッセイ(essai=試み)」という形態の文章を書くことが楽しいと書いていらっしゃいましたよね。それは、今回いろいろ考えながらパリの街を歩いた私にとっては19世紀後半〜20世紀前半の哲学者アランが取っていた形態の「proposプロポ =随想、哲学的コラム」に当たると、思ったのです!

難しいことを言いたいわけではないのですが、essaiが「自分自身を省みながら人間というものを探る」というもので、proposが「日常の出来事から引き出す幸福などについての考察」らしく、形態だけを見ても美紀さんと私の文章を書くことへの姿勢が表れている気がしたのです。どう思いますか?

こうやっていろいろと考えられるのはVacancesバカンスが頭の中にスペースを作ってくれたからです。このスペースがいっぱいにならないうちに、たくさん考えてみたいと思っています。やっぱりバカンスは大事ですね。

美紀さんの夏のバカンスはどんなものになるでしょうか。心と体をリフレッシュしてご家族と良い時間をお過ごしくださいね。

Bonnes Vacances!

信子

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