2025年10月10日
親愛なる信子さんへ、
一か月ぶりのお手紙となりますが、いかがお過ごしでしょうか。隔週で交代で書いていると、そういうリズムになるのですね。以前の2週に一度の往復書簡も、しょっちゅう会っているようで楽しかったですが、これはこれで、気持ちがゆったりとしていい感じかも。
前回の、信子さんのお月見のテーブルには助けられました。というのも、わたしも、今年は観月のテーブルを創ったのですよ。年々、秋になると月への思いが募るようになりました。これはかぐや姫DNAでもあるのでしょうか。
このときは、信子さんの、「夜空を」イメージしたネイビーのクロス、というアイデアを真似しました。また前菜も、信子さんの春巻きの写真とレシピを見て以来、気持ちが「春巻き」になってしまったのでこちらも参考にさせていただきました。Merci beaucoup!
でも今回ここで紹介したいのは、こちらの黄金色のテーブルです。毎年この季節は、このテーブルクロスと決めています。
というのも、うちの前の街路樹はティヨールという木でして、これが、毎年10月半ばには黄金色に色づくのです。それがもう圧巻で。

それに合わせて、この麻地にからし色の草花が散らされたクロスを広げ、テーブルにも黄葉を、というわけです。
麻地はいいですね。使い込むごとに柔らかくなって、でも張りは残っていて。
このクロスも前回のもの同様、モンマルトルの袂にある、あの布地街生まれです。布を求めたときに、売り場のムシューが長い竹定規を自分の首にぱちぱち当てながら、
「いいかい、麻地は縮むからね。幅は10%、横は20%は縮むと思って、たっぷり目に計算する。高い? この麻はフランス産だからね、でもその分、布目がいい。一生もんだね」
と、教えてくれたのですよ。
言われた通り、大き目に裁断してもらいまして、その布を畳みながら、ムシューの講義は続きます。
「これをな、今晩一晩、真水に浸けるんだよ。お湯じゃダメ、真水。24時間しっかり浸けて、糊を取るんだ。そうでないと、あとあと、汚れやシミが抜けにくくなる。麻の良さは、血でも脂でも、洗えばさらーっと流し落ちるところだからね、24時間だぞ、分かったかい?」
と、目を見て確認され、「ウィ、ムシュー」と、子どものように頷いたわたしでした。
このムシューのように、商品のことを熟知して売ってくれるプロに出会うと、嬉しくなります。
そういえば、サービス精神がないことで有名(?)だったフランスですが、近年は、随分改善されてきたように感じます。特に若い人が頑張っているような気が。自分が提供しているサービス、取り扱っている商品にリスペクトがあるのですよ。そんな若者に出会うと、「おお、頑張っているね」と、つい母親目線で声を掛けたくなるのですが、そこはぐっと堪えて「Merci Monsieur/Mademoiselle,すごく助かったわ」と返すに留めています。プロの方には、たとえどんなに若くともそれにふさわしいリスペクトが大切、ですものね。
彼らの心意気は、この布地屋さんのムシューのレベルに到達するまで、続くでしょうか。そうあってほしいです。
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さて、フランスの秋・冬の定番デザートといえば、この林檎のタルト・フィーヌ。わたしも、今シーズンが始まった感あり、です。これから春が終わる頃まで、何度も焼くことでしょう。
お店のは、林檎にしたに林檎のピュレが敷かれていたり、工夫がありますが、家で作る場合は、パイ皮に林檎お薄切りを並べて、お砂糖振りかけて終わり、というのがフランス流。
これ、簡単なようでいて、香ばしく焼き上げるにはコツがあります。フランスでは、タルト・フィーヌが上手に焼けると、「お、ついにオーブンをメトリゼ(マスター)したね」と褒められるんですよ。
わたしなりのコツをシェアしましょう。
・オーブンはしっかり予熱炊きすること。わたしは200℃で焼きます。
・水分多めの林檎であれば、パイ生地の上に、水分吸収用に、アーモンド・プードルや、ビスケットを砕いたもの(わたしはスパイスが多いスペキュロスを使います)を薄く振り撒いてから、林檎を並べます。
・林檎を並べるのが面倒ですよね。わたしは、皮を剥き、半分、もしくは四つ切にし、芯を取り除いて、大根を切る要領で薄切りにします。それをバラバラにせず、ぐしっと横倒しにして少し押し広げ、そのままパイ生地に移動していきます。一枚一枚並べていくよりずっと楽です。
・焼きっぱなし、でも美味しいですが、テーブルに出す前に、溶かしバターを塗ると、さらにグー。
・アップルパイといえばシナモンですが、フランスでは「なし」が多いかも。あまり加えず、シンプル、がフランス流のように感じています。
(と書きつつ、少ーしだけタイムを忍ばせたら美味しいかもしれない、と想像しています。今度試したら報告しますね!)

秋といえば紅葉。紅葉といえば日本。
いや、季節ごとに日本への思いは募るばかりなのですが。
フランスは、11月は雨期がごとく雨が降るので、今を慈しまなくては。
10月のあの天高い日本の秋空に想いを馳せつつ。
信子さんのお便りを楽しみにしております。
かしこ
美紀


