『テーブルの往復書簡 ベルサイユ―東京』⑲

わたしたちの往復書簡
©エクリール

雨がぱらつくベルサイユよりお便りしています。東京は梅雨入りしたそうですね。わたしが滞在している間は、一日も雨に降られることがなかったので、梅雨と聞くと、それすらも懐かしいのですが、住んでいる方はそうでもないかな。

毎回日本に帰ると、ほとんどの日々を叔母のような友人のご実家に身を寄せさせてもらっております。そのお宅は、下町の、昔の長屋を改築した、おそらく80年代初めの建物です。ご両親が他界されてからは、普段はどなたもお住まいではなく、ご家族の方が空気を入れ替えたり、手入れをされているお宅なのです。

昔のお宅なので、間取りが昭和です。和室があって、押入れがあって、あとで変えた洋間があって。
台所には、2,3人用の食卓があって、テレビがあって、ガスコンロがあって。そこがわたし達二人が一緒に過ごすための居間のような場所となっています。

友人は、普段はハワイに住んでいらっしゃるので、年に何回か帰省されるときにこのご実家に戻られます。わたしが帰省するときも、それに合わせて戻ってきてくれて、二人でおしゃべりを楽しみながら、しばし一緒に過ごす、というのが近年のわたしの帰省パターンとなっています。

食事の時は、友人のお母様の頃から使われていた小皿やお椀を並べて、二人で同じものを頂くこともあれば、そうでないときもあるという自由スタイル。
お料理は、二人とも海外がベースなので、ここぞとばかりに、おしんこや豆腐、お刺身に干物、そして大根や生若布のお味噌汁と、和食の王道を貫きます。
そして、二人ともお年頃(友人はわたしより18歳年上)ですので、量は控えめで、ほんと、ちょこちょこっと頂く。でもおしゃべりが尽きないので長々と頂きますから、実は結構食べているのかも!

とにかく、フランスの前菜があって主菜がどーんとあって、という食生活とは全く異なる「ちょこちょこ食」。食卓に至っては、普段フランスでするようなテーブルセッティングとは無縁の世界です。

小さな食卓に、一輪挿しの花入れにカーネーションが飾られ、九谷焼の小皿や朱塗りのお椀が並び、江戸切子の小さなグラスにビールを注いで、という、実に昭和なテーブル。
これが何よりも愛しくて、居心地よくて。
今回は、その理由を考えてみました。

①古いお宅ですが、丁寧に住まわれてこられたことが、そこかしこから伝わってきます。清潔で、修繕を重ねていて、きちっと大切に住まわれてきた軌跡があって。テーブル、壁、換気扇、床……、そこかしこに、友人の、そして友人のご家族の、ぬくもりのようなものを感じるのです。

②家具やお皿が、家にフィットしていることもポイントだと思いました。小さめの食卓も、小さめのお皿も。一番大きな洋皿でも、フランスのデザート皿の大きさだです。それでオムレツや時折「洋食」を頂きます。でもそれが正しいのです。大きさや雰囲気も、突出したものがなく、馴染んでいるので落ち着きます。

③上質で使い易いものを選び、大切に使っていらっしゃる。お皿はもちろんのこと、お鍋一つ、スポンジ一つ、何をとっても雑な選び方はされていない。

④物を増やさないように気を付けていらっしゃる。これはご両親が他界されたときに断捨離をされたそうです。

⑤古いものを大切に使っていらっしゃる。古九谷も惜しみなく使うし、そうでないお皿も同じように大切に使われていて。

信子さん、ここまでリストアップして気づきました。
これこそ、アールドヴィーヴルの真髄ですよね。昭和なお宅にフランス語でミスマッチだけれど!
暮らしへの愛。
それがアールドヴィーヴルなんだなぁ、と再確認しています。

毎回日本からフランスに帰ってくると、こちらの暮らしも、もっともっと慈しみ、テーブルの立役者たちを大切にしよう、と思うのですが、それは日本で、この友人のお宅で感じた「暮らしへの愛」が為せる技なのでしょう。

写真は、帰国後のサロンで参加者の方々と一緒に作った、シンプルだけど、使い易くて愛あるテーブル・コーディネートです。
プレイスマットはブロカントで見つけたヴィンテージ。ベルナルドの白い皿は、結婚した時に揃えたものですから、20年以上使っています。シルバーは夫の家から代々受け継がれているものです。
緑の季節なのですが、この日は肌寒かったので、プレイスマットの深緑を重ねることで落ち着きを演出しました。

さてさて。
日本の皆様は、しっとりしとしとの梅雨の季節、心身ともにご自愛くださいね。フランスの皆様は、この気まぐれな天候に振り回されないように、心も体も守っていきましょうね。
また書きますー!

かしこ

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