初秋のある日、パリ・スタイルのフラワーアレンジメントの第一人者でらっしゃる斎藤由美さんに、「庭の花摘みレッスン in ベルサイユ」という特別レッスンをしていただきました。
あの夢のような半日を動画や画像でご紹介するとともに、どうやってお花のセンスを磨いたらいいのか、そんな話もしたいと思います。
前回までのおさらい
もう一度、ここまでの流れを確認しておきましょう。
前回までは、自分のことをよく知ることが大切、という話をしました。
それは何でなのか? 自分を知るとセンスの良い「選択」ができるようになるから。
「選択」という言葉は「行動」に置き換えてもいいと思います。
センスの良い選択をすると何が起こるの?
日々の暮らしがより良いものになります。
わたしたちが目指すのは、そこですからね。
Arts de vivre アールドヴィーヴルとは日々の暮らしをより良いものにすること、です。
センスの良く暮らすためには、
一つ、自分を知ること
二つ、知識や情報を蓄えること
三つ、一と二を踏まえた上で、「こうしたら暮らしが美しくなるかも、よくなるかも」と思うことを行動に移すこと
です。
前回までは、一つ目の自分を知るためのワークショップなどをしました。
今回からは、二つ目の「知識」のところを、わたしの見聞をシェアする形で補充して頂こうと思っています。
そうは言うものの、ベルサイユのサロンのいらっしゃる方々は、ご自身のこともよくご存じですし、知識・教養も豊かな方ばかり。きっと、今この文章を読んでくださっている皆様もそうなんだろうな、と推測しています。
日本人は、得てして知識・教養レベルが高い、というのは薄々感じていましたが、サロンや、皆様から頂くお便りを拝見していると、ここまで素晴らしかったか!と驚いています。音楽のこと、美術のこと、陶磁器のこと、リネンのこと、料理のこと、ワインのこと、お茶のこと、そしてお花のこと……お詳しい方が多いこと!
皆さん好奇心&知識欲が強いのでしょうね、習い事で学んでいたり、自ら情報収集されていたり、本当に頭が下がる思いです。
でも、意外と「行動に移すこと」に躊躇されているような印象があります。
「習ったけれどああいう風にはできない」「道具がない」「センスがない」「場所がない」「ついつい面倒になってしまって」「どうせ家族は無関心だし」などなど。
皆さんはそんなことありませんか?
由美さんのレッスンは、まさに、「行動しましょ」というエールがいっぱいのレッスンでした。
そんな「あの日」のレッスンを、こちらでご紹介したいと思います。
斎藤由美さんのプロフィール 由美さんは、「パリスタイルの花」と「シャンペトル(野の花風、田園風)のブーケ」この二つを日本に紹介された第一人者です。2000年に渡仏され、今では、シックなカルティエとして知られるパリ6区にあるRosebudというフローリストを拠点に、フラワーデザイナー&フォトエッセイストとして大活躍されています。 著書も多数!『ブーケシャンペトル・ア・ラ・メゾン』『パリスタイルで愉しむ花生活12か月』など。 詳しくは、こちらをチェック!
アンティーク色の紫陽花たち
まずはこちらの動画をご覧ください。
この日は、インディアンサマーと呼ぶにふさわしい好天でした。
由美さんは、麦わら帽子に花切りバサミが入ったポシェットを下げて、RERという名の馬車(その実は、似ているのはがたがた揺れるところだけ、という郊外電車なんです……)に揺られながらパリからご登場され、
参加者の皆さまは、ブルターニュから、京都から、パリから、そしてベルサイユから、とまるで蝶々のように、うちの狭い庭に舞い集って下さりました。
フランスは、天候不順だったこの夏。そのせいか紫陽花が色合いがイマイチだなぁ、と思っていたのですが、由美さんは「アンティーク色で素敵」とおっしゃる。「わたしに気遣ってくださってるんだわ」と思っていたのですが、由美さん、蝶々の皆さまによって手折られた紫陽花たちを見ると、あれ? ほんとだ、なんていい色!
花といえば、鮮やかな色、明るい色、と思い込んでいた自分に気づきます。
自然の美しさは、鮮明な色だけで作られているのではないんですよね。
すでに第一歩から、自分の「縛り」が緩んでいきます。
花は誰のために飾るのか
由美さんのいつものレッスンは、基本的にはプロのフローリストになるためのご指導をされているのですが、
「今日は『自分のために花を飾る』、これを第一に置いてのレッスンですよ」
とおっしゃいます。
まずは、摘んだばかりの草花特有の水揚げの方法を伝授していただいてから、「マッハ」の速さで手を動かしつつ、
「花器だけでなく、日常遣いの器も使いましょう。針金やセロテープでちょっと工夫すると使いやすくなりますよ」
オアシスの代わりに針金を丸めたものに花を挿す、間口が広くて扱いにくい器ならばセロテープで格子を作る。蔓や蔦をリースのように円くして、その間に花を挿していく……次々と紹介される天才的なアイデアに、皆目を丸くして眺めておりました。でも、由美さんは手を休めません。
「葉っぱの表裏の色の違いに気づいたり、香りや手触りを楽しんで、自分が好きなように、生けてね」
と由美さん。
そうだよね、そうだよね、もっと気軽に花を楽しめばいいのよね、とうなづくわたし&蝶々さんたち。
葉っぱの表だけが見えるようにと、強引に花をいじって、結局思った通りに曲がつけられなくて、「わたし、だめだなぁ、花は向いてないや」と投げ出していたけれど、別にいいよね、裏っ側の色合いも素敵だよね。
とにかく、自分が楽しむことを第一。
実はそんな風に花と接したことがなかった、と気づきました。
居間を飾るために花を生ける。家族を元気づけるために花を生ける。お客様いらっしゃるから花を……。いつもどこか義務感をもって花と接していました。
また少し、縛りが緩んでいきます。
「長持ちしなくても、おうちの花なんだから、水を替えたり、花や葉を替えればいいだけでしょ?」
……と、敢えて水の中に緑を沈められて。
なんて涼しげ、なんて大胆、それなのになんてバランス感がある!
びしっと後れ毛一本ない結い髪というよりは、緩く結われたシニョン姿のしなやかなで瑞々しい女性を彷彿させるブーケではありませんか?
由美さんの才覚に圧倒されているわたし達を横目に、由美さんは次々とアレンジメントを作られていくのでした。
(つづく)