この夏に出会った素敵な本があります。
森田けいこさんと山本ゆりこさんが書かれた『パリ歴史散歩ノート』です。
パリのガイドブックと呼ぶには内容が濃くて、でも歴史本と呼ぶには楽しすぎる。なんというのでしょう、まるでパリという地霊の「物語」のようだな、と思いました。
どの街にも地霊がある
街には地霊がある、と思いませんか?
この街がこれだけ栄える理由は、
これだけ戦いがある理由は、
これだけ美しい理由は、
逆にこんなにごちゃごちゃしているのに人を惹きつける理由は。
ロンドン、ベルリン、パリ、ベルサイユ、日本でいうのなら東京、京都、鎌倉、横浜……思いつくままに並べていますが、どの街にも、「人格」のようなものを感じることがあります。
わたしにはパリという地霊は、あまりいい性格を持っていない霊のように思っていました。街並みはきれいだけど、二重人格者のように陰険な側面があるような気がしていたのです。
でも、『パリ歴史散歩ノート』の、いにしえの頃のパリを知るうちに、「あれ? わたし、パリを誤解してない?」と思えてきて。
『パリという物語』
もっとパリのことを知りたくなり、著者のお一人、森田けいこさんがパリにお住まいと聞いて、図々しくも、拙宅で開いているサロンにもご登壇ください、と懇願したのでした。この秋よりレクチャーをしていただいています。
パリという物語について、古代から、順を追って話していただいているのですが、やっぱりそうでした! 何がって、やっぱりわたし、勘違いしていたのですよ。
いえ、わたしが抱いているネガティブな印象――今まで書いてきたような、妬み深く、臆病で、傲慢で、一言余計な性質などなど、これもパリという地霊のキャラクターだと思うのですよ。でも、一方で、いい面も沢山あるんだな、そこを知らずに、勝手にネガティブキャラ判定を下していたんだな、と見えてきたというか。
パリもいいところがあるのよ
パリの地霊のいいところ、一つあげるのであれば、古いものを大切にする姿勢でしょうか。
古いものに、自分のルーツが宿っていることを知っている、だから、今の生活で役に立たないものかもしれなくとも、大切に、原型を壊さないように、修復して、守る。だって、これが無くなったら、わたしという地霊の一部が失われてしまうのだから、と。
例えば、パリ左岸にあるアレーヌ・ド・リュテスは、紀元前1世紀に建てられた競技場――ローマにあるコロッセウムの小型版でした。それが少しずつ損壊し、13世紀には完全に埋め立てられて、「かつてここにあったらしい」だけの状態となったそう。それを19世紀になって、「ここに競技場が埋もれている」と知った知識人達が民衆を扇動し、やがて議会も資金を出して発掘し、公園にしたんですって。
素晴らしい話ではありませんか? これも、きっと、ローマ帝国の支配下にあった時代も、今のパリの一部なのだから、大切にしなくては、と思って実現したのだと思います。
日本からは、坂本龍一その他の知識人たちが反対したのに、都議会は神宮の木々を伐採しているという痛ましいニュースが流れてきた昨今だけに、ブラボー、フランス!と思ってしまいました。
歴史を知ることで今が開ける
正直いうと、今のフランスだけを見ると、アラが目立ってしまい、どうしてこんなに世界から愛されているのかがわからないわ、と頭を抱えてしまうわたしです。
でも今は、もっと視野を広げて、フランスを知ってみたい、と思っています。この街の歴史を知ったら、今のフランスのことももっとよく見えてくるような予感がしています。
そしたら、もっと好きになれるかな。そうだといいな。
……ところで
毎月5日と20日に更新を目指して書いてきましたが、ここから2月までは、ゆっくりペースで、不定期に執筆させていただきます。
そんなわがままなわたしですが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
寒くなる折、風邪など召しませぬよう、どうぞご自愛くださいね。