往復書簡㉑ 親愛なる信子さんへ

わたしたちの往復書簡
©エクリール

2月21日

冬のバカンス真っただ中のベルサイユよりお便りしています。
そう、学校はお休みですが、わたしはどこへも行かず、ここベルサイユの家に居残りです。息子たちは、ひとりは友達とスキーへ、もうひとりは学校がオーガナイズしたリトリート&受験勉強の旅へ出掛けています。学校休みが来るたびにちび猿を引き連れ、「海へ、スキーへ、その合間にはプレイデートを」と奔走していた日々は突然終わりを迎えたようです。
このあっけない幕引きに、少々ぽかんとしましたが、今はふつふつと湧いてくる喜びを噛みしめているところです。

信子さんは、お子様方が皆さんパリで暮らしていらっしゃるから、普段からこんな感じなのですよね。これ、素晴らしくないですか? もちろん、離れていても子どもは子ども、気にはなります。でも、身体に関しては子ども達の方がよっぽど丈夫ですし、困ったことがあっても自分でやってもらわなくてはならない歳ですから、心配も口出しも打ち止め、と自分に言い聞かせています。

とにかく、自分のことに没頭できる時間が、それもまとまった時間があることの嬉しさったら。そう、嬉しさ、なのです。嬉しいと思えることがこれまた嬉しいという。

というのも若い頃は、自由時間を持て余していました。ひとり時間を上手に楽しめなかったんですよね……。なんでだったんだろ。若かったのだから、若い人らしく目の前にあることに打ち込んでいればよかったのに。あの頃を思い出すと、「ひとり」という言葉の重さや、これからもずっとこんなんかな、と、この先ずっと続く「ありすぎる時間」の重さに押しつぶされていたような気がします。

でも! 人生長くなったとはいえ、いつ終わりが来てもおかしくない歳になってしまえば、時間は有限で、「ずっと」は続かないことが明白で。これからできることは何なんだろう、したいことは何なんだろうとよく考えます。

信子さんは、フランスと日本の文化について発信をされ、テーブルコーディネートについてもライフワークであって、フランス語についてもさらに深く追求されて、とマルチに動かれているのですね。江戸っ子信子さんですから、チャキチャキとこなされているんだろうな。

信子さんのお宅でお会いしたときにも告白しましたが、わたし、実は小説を書くことが好きで、いつか世に出したいという壮大すぎる夢を抱えています。その根底には、誰かのこころに寄り添いたい、という気持ちがあってね。おこがましいモチベーションともいえるのですが。
でも小説という媒体でなくても、それはできることなんだよね、というのが近年の気づきです。エッセイという形でも、サロンという形でも、また伝える側でなく聴く側としても、寄り添うことはできる、支えのようなものになれる、そう考えるようになりました。(それでも小説書きもやめられないのですが!)

目下のところは、オンライン・サロンに向けて、準備を進めています。その名も「エクリール・オンライン」。ひねりも何にもない、そのまんまの名称で……。何かいい案あったらお知らせください!

サロンでは、パリの歴史や絵画、歴史の教科書に現れた人物、現れなかった人々、フランスや欧州の庭園や建築・インテリアについて、その道のスペシャリストたちに語って頂きます。
ちょっとした知識を得ることが、ドミノ倒しのように次の動きへと繋がったら。ちょっとした栄養分が何かの芽生えに繋がったら。そうなったらいいな、と思っています。

でもそれ以上に、オンライン上ではあるけれど、ここに来るとほっとする、そんな居場所になれたらいいな、と願っています。家庭でも、ママ友グループでも、職場でもない。「わたし」が「わたしでいられる」の居場所になれたら……。

夢語りはこのくらいにしておきましょう。

日本はまた寒波が到来していると聞いています。信子さんが書かれていた通り、冬と春の喧嘩が続いているのですね。もうそろそろ「冬」も疲れているでしょうし、「春」に頑張ってもらいたいですね。いずれにしても、お風邪など召しませぬように、ご自愛ください。

またお便りします!

かしこ
美紀

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