女性の内なる言葉たち……『マザリング、現代の母なる場所』

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パリのギメ東洋美術館で開かれた源氏物語展より。源氏物語の主人公は、女性たちだと、わたしは思うのです。

明けましておめでとうございます。

日本では能登地震と飛行機火災があった新年でした。被災者の方々が一日でも早く落ち着いた暮らしを取り戻せることを切に祈っております。また犠牲者の方々のご冥福と鎮魂をこころより祈念しております。

2024年はどのような年になるのでしょう。悲しいニュースも受け止めながら、それでも前に進む年にしたい。わたしとしては、これから暦を12か月捲り終わったとき、「今年はよく読んだなぁ、そしてよく書いたなぁ」という充足感に浸っている、そんな一年にしたいと思っています。

『マザリング、現代の母なる場所』

ということで、今年初めにご紹介する本はこちら。

映像も手掛けていらっしゃる中村佑子さんの「論考」という分野の書籍です。

わたしは、単純にタイトルに惹かれて手に取ったのです。|
「マザリング」――母親というものを知りたいわたしにピッタリじゃない?と。
なぜ「母親というもの」を知りたいのか……。

一つには母親の影響力の凄さをあちらこちらで実見している昨今だから、というのがあります。
母親の愛の力に感動するケースもあれば、母親のエゴに縛られていて辛そうなケースもあります。ニュースを見れば虐待や殺戮も母親との関係性が起因していることが多いし、母親の影響は大人になっても薄れるどころか、強まったりしている。まったく、母親というものは一体なんなんだろう、と畏敬の念というか、畏怖の念というか恐怖というか、なのです。

もう一つには、女性の生き方について考えてしまう昨今だから、というのがあります。
専業主婦が憐れまれる風潮や、女性が働くことを称賛する風潮、母親という言葉が孤独を意味しているように聞こえる風潮、などなど、今、何が起きているのか整頓してみたいという気持ちがあります。

この本の中に、それらを考えるヒントがあれば、と手に取ったのです。でも思ったより手ごわかった!
本書は、論考なのですが、ときにエッセイのようであり、数名の方へのインタビューが軸にあるので小説のようでもあり、またときには作者の日記のようでもあるなぁ、と感じました。作者の意識の流れに沿って話が進んでいきます。感性的(という言葉はあるのでしょうか?)な文調で、実際的で直線的(単純ともいう……)なわたしはわかり易い結論を求め勝ちがゆえ、迷子になるときもありました。

が、読んでよかった。母親以前に、女性とは何かを知った思いというか。

なかでも水に関する話は考えさせられました。

女性と水

作者は若かりし頃、水に敏感だった時期があったといいます。お風呂に入るとなぜか泣けてきてしまうとか、そんな感じで水に敏感だった、と。でも成長とともにそうでなくなっていたのに、妊娠したらまた昔のように水に敏感になったそうです。

作者は、胎児は羊水の中で育つわけで、人は水と親和性があるのだろう、と言います。女性は妊娠と出産という動物的な体験をする、いやしなくとも、月経というのは、妊娠の準備をして、でも妊娠しなかったから準備したものを排出するのだから、女性というのは、男性より原始に近い感覚を保ち続けているのではないか。だから水に触れるとほっとする、あるべき場所に戻ったように感じて泣けてしまうのではないか。そして妊娠という原始の頃から繰り返されている事象が自分の身体に起きているときは、より本来人間が持っている感覚が鋭敏になるのではないか……と展開していきます。(わたしの大勘違いの可能性があるので、興味ある方はぜひ読んで確認してくださいね)

わたしは作者のように水に反応した経験はないのですが、先日、水と女性と信仰について見聞したところだったので、おっ、と思いました。

それは、青いステンドグラスで有名なシャルトル大聖堂でのことです。ベルサイユのわが家からは車で西に1時間走ったところにあります。
長いことカトリック教会として大切にされているシャルトルですが、キリスト誕生前の遠い昔は、ケルト民族の信仰(ドルイド教)の場だったといわれているそうです。大聖堂の地下には井戸があるのですが、いにしえの頃は、その湧き水とマリア様の前身とされる女神を信仰していたそうです。そのサンクチュアリーの上に、やがて教会が建立され、変遷を経て、今の大聖堂に至っているという話でした。

シャルトルの薔薇窓

ね、ここでも「女性と水」なのです。
思えば、英語ではMother Oceanという表現をよく耳にしますし、そういえば、ジブリの『崖の上のポニョ』でもポニョのお母さんは、海の女神でしたっけ。

水、水、水……。わたしもページを繰りながら、作者のように自分の意識の流れに乗って記憶を遡ります。

弱いから強いわたし

水と言えば、息子たちが赤ちゃんだったとき。お風呂とき、肌が水をはじくようでした。今思い出しても、つるつるの肌は眩しくて、わたしはなぜかそれが誇らしかった。

その前の大イベントといえば出産。でもいつ破水したのだろう。長男・次男共に記憶にありません。それよりも、長男のときは、出産直後に体温が急低下して映画『エクソシスト』のように体ががくがくしたことを思い出しました。でも死ぬかもしれないとは微塵も思わなかった。わたしの危機感のなさ、ふてぶてしさ。

その前のわたし……。若い女性だった頃。自信ぐらぐらなのに虚勢を張ってバカ丸出しだった。水の記憶なし。

その前の思春期は不安定でしょっちゅう偏頭痛が起きていた。水の記憶はないけれど、瑞々しい肌を持っていた時代。

その前の少女時代は太っちょで、母はわたしのぴちぴちの腕に頬ずりするのが好きだった。わたし自身が水分でできていたといっていいでしょう。

その前は……幼児用プールに身を沈め、息が続くまでカエルのように泳ぐのが好きだった、幼きころの自分が思い出されます。

その前は……。記憶の底についてしまいました。どんな赤ちゃんだったのだろう、と考えてもプリント写真の中の自分しか思い出せません。

その代わり、以前SNSにて見かけた、羊膜に包まれたまま生まれてきた赤ちゃんの写真が瞼に蘇ります。稀に、破水することなくこのように生まれてくることがあるそうです。一瞬ぎょっとする画像で、あのときは目を逸らしたのですが、今は、ああ人は水の中から生まれてくるって本当だなぁ、と腑に落ちます。
で、その水の入った袋をお腹で守っていたのは母なる女性。

なんか、女の人ってすごいなぁと思ってしまいました。

産んだからすごいとか、男性よりすごいとか、そういうことではなくて、女性はすごいなぁ、と。

本書の中で、女性の身体は他者を受け入れるようになっていて、そこが弱みでもあるんだけど、その弱さが女性の強さと言えないだろうか、という下りがありました。どういうことなのか、明確にはわからなかったけれど、弱さを知っている人は強い、といつも思っているので、感覚的に納得しました。

話がばらばらしてきましたが、うん、女性をわかるのは難しいです。

「女はわからないなぁ」と思う世の男性よ

大学生の頃に、お付き合いしていた男性から「お前のことがわからない」と言われたことがあります。あのときは、「なんでわからないんだろう、わたしはこんなにわかり易い人間なのに」と思ったものですが、この本を読んだ今、あの時の彼に同感&同情しています。

確かに、女は難しいんでしょうね。たくさんの思いや言葉を内に秘めている。秘めたままだから女性も自分がそんな言葉たちを持っていることを知らないことすらある。その上、社会(≒男性)は勝手な幻想を押し付けてくる。
それを受け入れてあげているけれど。
だからといってそう思っているわけではないけれど。
でも段々わからなくなってくるのよね……。
(そして、自分をわかっていないから、自分が持っている力や影響力をちゃんと認識していないから、自分を過小評価しているから、悪気なく子どもを苦しめてしまう母親がいるのかも……。)

女性自身も自分をわかっていないのに、男性はそりゃわからないでしょうね。

『考える場所』、それは本の中にある。いつもある。

「(前略)……女性たちが自分たちのことをゆっくりじっくり言葉にしてみようとする場所が少ないという実感もあって。

いろいろな人の言葉を聞いて、本を読んで、考えつづけたい。この本自体が私にとっての考える場所なのかもしれません。ただ共有するだけではなくて、この本を始まりの場所として、これからもさまざまな人の経験に触れ、考えていきたいです。(後略)」
作者、中村佑子さんへのインタビュー記事(Numero Tokyo)から抜粋

わたしにとっても、この本は「考える場所」となっています。

わたしなり本書から拾ったこと、考えたことを記すと、
・母なる場所……胎児だったとき、幼かったときは、お母さんがサンクチュアリーのような場所だったんだね、自分がそういう場所となっていたことあったんだね。
――うんうん。

・でも社会に出ると、そういう場所がなくなっているね。もし社会が赤子に対するような無条件なやさしさが在る場所だったら、わたしたちはもっと生き易いだろうね。
――うーん、それはそうだろうけど、現状があまりにそこからほど遠いからピンとこないわ。

・政治は「女性の活用」を謳っているけれど、何かズレてるよね。女性を男性のように登用しなくては、じゃないよね。
――うんうん。

・フェミニズムへの違和感もそこら辺にあるよね。
――うんうん。

・女性って、男性に対抗する存在ではないよね。もちろん男性に劣る存在でもないし、弱くもない。いや弱さはあるけれどそれを受け入れることができる、やわらかくてしなやかで全てを包み込むことができる存在。
――うん、そうだね。
うん、ほんとにそうだね。
うわ、なんだか力が湧きあがってくる。
なんだろうこれ。

今ココ↑です。
映画「バービー」を観たときとどこか通じる、内なる変化を感じています。

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自分を定義し直しているというか、なんというか。
主体性? 自信? なんだろ、なんだろ。

ゆっくり考えてみたいと思います。

世の女性に、そして男性に、おすすめしたい一冊です。

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