美とはなんぞや。……『近代美学入門』を読んで

本を読もう
昨年、ベルリンの旧国立美術館で惹かれた絵画です。 作者をご存じの方、教えてください!

日々の暮らしを少しでもよいものにしたい、というのがわたしの願い。こちらを訪れてくださる皆様もきっともそうですよね?

で、考えます。
「よいもの」ってどういうこと? 漠然としすぎだよね。
「美しいもの」と言い換えてもいいのかな。
そこには、料理も含まれるし、インテリアのこと、花のこと、ガーデニングも、お茶のことも、Arts de la tableも含まれる。どれもちょっと齧ると深いものあって、色んな知識が必要で、でもそれらはどこか繋がっていて。

そんなことから「美しい」っていうことをもっと体系的に学べないのかしら、と、その昔、思ったのですよ。で、調べてみると、「美学」という学問があることを知り、飛びついたことが。

でも、この「美学」、すごく難しそうなんです。
哲学の範疇にある学問とやらで、哲学のほか、歴史、宗教学、美術史に、あとはなんだっけ、ほんとにたくさんの知識が必要らしく、「台所周りをもっと美しくしたい」とか「わたしなりの美を暮らしにもたらしたい」と思っているのとは、レベルが違う学問なのね、と自分の勘違いを嘲笑して終わりました。

それから10年くらいたったあるときこの一文が目に留まりまして。
「……風に舞う桜の花びらに思わず足を止め、この感情はなんだろうと考えたなら、そのときはもう美学を始めていることになります。」
この言葉に、「やっぱり、それでいいんだ、『美学』ってそれでいいんだ」と嬉しくなってしまって手に取ったのが、『近代美学入門』by 井奥陽子氏だったのです。

優しいようでいて、やっぱり手ごわい美学

市民講座のテキストを題材にしたそうで、実にわかり易く美学を説明してあります。
近代において、どのように美の定義が作られて行くのか、わたしでも分かるように書いてある。

それでも、やはり教養知識ボンなので、「学ぼう!」という意志がないときは頭に入らなかったりします。

でもでも、そういうとき用に、ちゃんと「この章のまとめ・ポイント」もあってとても親切です。

でもでもでも!「美しい暮らしを実現するための対策ボン」ではなかった!
「美とは何か」への答えもなかった!

「美は、美しいものにあるのか、感じるひとの心にあるのか」

わたしは、知りたかったことがあるのです。

「美は、主観が大切なのか、客観性が大切なのか」ということ。

「好きを着る」が良しとされる最近です。「人がどう思うとか、気にしすぎ。わたしは自分が好きなものを着たい」。うんうん、わかります。でも、それが突飛に映ってしまう、美しいと思えないことも多くて。
「太目でもミニスカート履いちゃうもんね」
「もこもこルックだとほっこりするから、とぬいぐるみのような恰好しちゃうもんね」
とか、男性だと、スーツ姿だけど、キレッキレのアシメトリなヘアスタイルのビジネスマンとか……それでいいの?と考えてしまうのです。

一方で、就活生の紺色一択のスーツ姿も、見るたびにため息で。わたしが就職活動した30年前の方が現代より自由だったというのはどういうこと? 学生とはいえ大人なのに、ユニフォームみたいな恰好して、アナタたち「好きを着る」世代じゃないの? 就活の際の装いは、「社会的な常識を理解しています」というのを理解してもらえる、そういう装いであれば良しではないの? それを学生に押し付ける社会、よくないよ、などなど疑問符がぐちゃぐちゃっとあるのです。
……でも脱線はよくないですね、戻りましょう。
それに、わたしは、装いというのは、その人の美意識を体現しているもの、という前提でこんなことを言っているのですが、そこからして、今の時代とズレているのかも、ですし。

本書には、わたしが知りたい、美は主観的な物差しで測るべきか、客観性が大切なのか、という議論についても記されています。パークはこういったが、カントはそうではなくて、という興味深い議論で、わたしの頭の中のこんがらがっている疑問符を解きほぐす手助けになりました。
でも結論はなくて。

自分で考えるしかないらしい

というか、そんなものあるわけないよね、と見えてきます。
「美」はそんなに簡単に入手できるものでも、また、普遍的に定義づけられるものでもない、ということも、本書を読み進めるうちに分かってきます。

ピタゴラスにカント、パークといった賢人たちが「ああでもない、こうでもない」と考えて、「美」は少しずつ解放されているけれど、未だにそれが何なのかはわからない。
西洋と東洋では異なるだろうし、彼とわたしの感じる「美」も異なるし。
安直に答えを求めたわたしが悪かった!と反省しました。

この美学もそうですが、昨今見えつつあることがあるのです。
それは全てのこと――暮らしに纏わることもそうだし、社会のこと、政治のことも、家族のことも、自分のことも、全て全て、答えなんてない。たとえ今日は正解の答えでも明日にはそうでないかもしれなくて、わたしたちは毎日毎日考え続けないとダメなんだ、という、怠け者のわたしとしては嬉しくない「答え」。

面倒くさいです。
大変です。
体力、精神力が必要です。

重苦しい調べになってしまいましたが、こちらの書籍は至って軽やかに書かれていて、ヨーロッパで暮らす方や、文化に興味がある方にはお勧めです✨
あと、これから世界を相手に生きていく若い人にも読んでもらいたい。
読み終えたころには、しなやかな筋肉(教養というと固いですが)がつくと思う(そう信じて)。

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